職員リレーコラム

ちいさなアスリート

2019.05.07 Tue

動物

IMICがある信濃町のすぐ近くでは、オリンピックに向けて新国立競技場の建設が進んでいます。
建設現場は都営大江戸線の国立競技場駅に面していて、その駅の出入り口にはちいさな駐輪場があります。
おそらくオリンピックに向けた駅前改修工事でその駐輪場は無くなってしまうかもしれませんが、その駐輪場には、少し前まで白、黒、三毛の3匹のノラ猫がいました。白猫は男の子、黒猫と三毛は女の子です。
この3匹は、国立競技場駅を利用する人にはよく知られているようでした。
特に白猫はいつも駅前にゆったりと寝そべっていて、人を怖がらないので、ちいさな子供が撫でてもおとなしくしていて、ちょっとしたアイドルでした。
私も仕事帰りに毎日彼らの顔を見に行って、その日のうれしかったことやら悩みごとやらを話しかけながら鰹節を少しあげたりしていました。夏の暑い時期は日陰で寝そべっていたり、雪が降った冬の寒い夜は、誰かが置いてくれたちいさなダンボールの家で3匹丸まって生き延びてきたのでしょう。
しかし国立競技場の工事は着々と進んでいて、昨年2018年には、3匹の住む駐輪場わきの空き地にも、工事予告と立ち退き要請の看板が立つようになりました。
誰かがダンボールで作った3匹のちいさな家にも「撤去してください」という貼り紙が貼られ、看板には2019年1月20日までに残置してあるものは撤去してくださいというようなことが書かれていました。寒空の下で、3匹が丸まることができる家も、ご飯も水もなくなってしまったら、冬は越せないかもしれない。猫たちの住む空き地もいずれ工事が始まると頭では分かっていたのですが、いざ予告されるとどうしたらいいか分からず、それまで不安に思っていたことが一気に現実味を帯びてきました。3匹はもちろん何もわからないので足元で元気に走り回っているのですが、長いこと彼らを見守ってきた人たちはとても心配していました。特に毎朝彼らにご飯をあげにきていた方は、新宿区の地域猫の担当者に相談したり、他にこの子たちを見守ってきた人と連絡を取り合ったりと、だいぶ奔走されているようでした。
そうして2019年が明けた頃、白猫の姿が見えなくなりました。おとなしい子だったからどなたかが保護してくれて、きっと今も元気にしてるだろうと信じています。それからも空き地には黒猫と三毛が残されていました。しかし期限まではもう時間がありません。

うちで一緒に暮らそう。
妻と相談して決めました。

家の中で暮らすのが彼らにとって幸せなのか、ノラ猫の自由と厳しさが幸せなのかは、正直分かりません。しかし、とにかく生きられる可能性があるなら保護したいと思いました。

撤去期限の前日の夜、私と妻はキャリーバッグとご飯とチュールを準備して、国立競技場まで車を走らせました。黒猫はとても人懐こくて、私のことを覚えているのですぐに保護できましたが、三毛はとても怖がりで、長いこと待っていましたが結局保護はできませんでした。もう日付も変わろうとしていて、それでも黒猫だけは保護しようと、すぐに獣医さんに電話をしました。
「すぐに病院を開けにもどります」
真夜中でしたが、優しそうな先生は準備をして待っていてくださいました。
検査を終え、家に着いたころは午前2時になっていました。
週が明けた1月21日月曜日、3匹がいた空き地ではエレベーターの設置工事がはじまっていて、ダンボールの彼らの家も、三毛の姿ももうありませんでした。
生活環境がガラッと変わってしまった黒猫は、それまで色々な人から呼ばれていた「クロちゃん」という名前まで変えてしまったらもっと混乱してしまうということで、幸せに暮らしてほしいと願いを込めてクローバーという名前にしました。
呼び方は今も変わらず「クロちゃん」です。
うちにやって来たはじめての夜はケージの隅で小さくなっていたクロちゃんも、数日すると家の中を探検し始め、今は妻や私と遊んでくれるようになりました。

もうすぐオリンピックがはじまります。

家族になったクロちゃんも、そしてもう会うことがなくなってしまったシロちゃんもミケちゃんも、厳しい路上での生活を何年も生き抜いて来たアスリートです。
金メダルじゃなくてもいい。
ただただずっと元気でいてほしいと願っています。

まるちゃん