職員リレーコラム

クラシックよもやま話:ある打楽器奏者のつぶやき

2019.01.08 Tue

音楽

はじめまして、当コラムにアクセスいただき誠にありがとうございます。

初回とは打って変わって、今回は音楽の世界――しかもクラシック、さらに打楽器と、非常にマイナーな部門についてご紹介してみたいと思います。そもそも打楽器とは……などというムズカシイことは専門書などに譲りまして、ここではクラシックにまつわるよくあるご質問?にお答えしてみたいと思います。ご案内役は、演奏歴ばかり長い(かれこれ25年!)、一介のアマチュアプレイヤーですが、しばしお付き合いください。

Q:クラシックって敷居が高いなぁ……。

A:よく耳にするあの曲もこの曲も、「クラシック」なんです!

「クラシック」=「とっつきにくい」「セレブの人が聴くんでしょ」といったような反応を頂くことがよくあります。でも、あなたがTVのCMなどで聴く曲の中には、クラシックの名曲がたくさん使われていますよ。たとえば……

◎「いい薬です」のフレーズで有名な胃薬のCM

⇒ショパン作曲「前奏曲第7番 Op. 28-7」

◎最近社名変更したガラスの会社のCM

⇒モーツァルト作曲「きらきら星変奏曲 K265」

◎飲み会の季節、肝臓をいたわるドリンク剤のCM

⇒ヴェルディ作曲「オペラ《アイーダ》より 凱旋行進曲」

◎携帯電話キャリア、仲の良さそうな一家のシリーズのCM

⇒チャイコフスキー作曲「バレエ《くるみ割り人形》より 葦笛の踊り」

最近は、フィギュアスケートが流行したことで、有名なクラシック曲がTVに流れることも多くなりました。

さて、こうした知識をもとに、これらの曲名がチラシに載っているからとコンサートを聴きに行ったり、CDを買ったりしてみたとしても……、「いつまで聴いていても、知っているフレーズが出てこない!」ということがよく起こります。CMに使われるような有名なフレーズは、曲の最初にあるとは限らず、むしろ中盤~後半に出てくることが多いのですよね……。こういったことも、「クラシックって難解!」というイメージを強くさせる一因なのかもしれません。

筆者自身も、クラシックを聴き始めた最初の頃、「いつまで経ってもあのフレーズが出てこない……」現象に悩んでおりました。これを簡単に解決するには、「オムニバス(寄せ集め)CDを聴く」という手があります。フィギュアスケートやCMで使われている名曲の、「おいしいところだけ!」抜粋して収録したCDがたくさん販売されていますので、もしTVを見ていて「この曲好きだな♪」と思ったら、選手名やCMの会社名でインターネット検索して曲名を探し、その曲名を含むオムニバスCDを買ってみると、「敷居が高い」クラシックの世界に足を踏み入れる第一歩になるかも……!

さらに第二歩目を踏み出すなら、曲名を手掛かりに、フルサイズの曲が収録されているCDに進んでみるのがおすすめです。あの有名なフレーズに至るまでに、どんなドラマが用意されているのか……、その全貌に触れる楽しさに目覚めたら、もうあなたはクラシック通への道まっしぐらかも!?

Q:聴いていると眠くなっちゃう……。

A:眠るのも一つの楽しみ方です!

これは筆者の個人的な意見ですが、音楽を聴いていて「眠りたくなるほど心地いい」というのは、ある種の誉め言葉だと思っております。「起きていなければ……!」と堅くなると、楽しみが半減してしまいます。クラシックにもさまざまな曲調がありますが、たとえばしっとりとしたピアノ曲のように、聴いていると落ち着くな……気持ちがゆったりするな……という時は、音楽に身を任せてゆったりくつろいでしまう! これが一番気持ちいい聴き方ではないでしょうか。

なお、もしコンサートで眠くなった時、うつらうつらしながら聴くのは無上の幸せですが、鼻音、荷物の取り落としなどにはくれぐれもお気を付けを……(静かに聴きたい方が大半ですので)。

Q:打楽器の人って何をやっているの?

A:たいていの曲ではヒマにしていますが、ここぞという時には大活躍します!!

オーケストラの中で、一番後ろに鎮座している人々……それが我々、打楽器奏者です。打楽器の席からの眺めはこんな感じ。オーケストラの皆さんを従えて、悠々と腰かけております。

 

そして何をしているか。実はクラシックの場合、ほとんど「ただ座っています」。もっとも極端な例としてしょっちゅう槍玉にあがるのが、ブルックナー作曲「交響曲第7番」。ここで楽譜をご覧ください。

こちらが、この曲で最も忙しく演奏しているであろう、第一ヴァイオリンパートの楽譜。計27ページ、ほぼ延々とこの調子で真っ黒です。

一方、打楽器(トライアングルとシンバル)の楽譜がこちら

「tacet」というのはお休みのことです。つまり、1,3,4楽章はすべてお休み。2楽章は、ほとんどずっとお休み……(上の方に書いてある小さい音符は、曲が今どこまで進んでいるか見失わないようにするために、他のパートの音が書いてあるのです)。ようやく出番が来た、と思ったら、最終行、「W」と書いてある小節、ここだけなのです……!! この曲、全部で70分近くあるのですが、出番はこの1小節だけ。

「暇だなぁ……」そう。暇なのです。クラシック曲、打楽器奏者はほとんどヒマです。

だけれども、その一発のために、どれだけ(他のパートの皆さんが)苦労してドラマを築き上げてくださっているか。打楽器奏者は、舞台の後方からずっと見ています。「こうして用意されたこの一発の出番を、万が一外したら……!」……これが、打楽器奏者が考えていること(の一例)であります。出番が来るまでの間、ずっと心配しながら見守っている。打楽器って、そんなパートです。筆者の場合、出番直前になると心臓が早鐘のように打ちまくり、本番のたびに「寿命を縮める趣味だな……」と感じております。

そして、その一発を叩く瞬間。この時はもう、本当に直感の世界です。思考は一切働いていません。理性が飛んでいて、音の中に埋没する感覚。そして、それがぴったりと決まった瞬間の気持ちよさ、これは筆舌に尽くしがたいものです……。この感覚を得るために、きっと25年もの間、筆者は打楽器をやめられずにいるのですね。

日々、業務の中でも、「決断力」がものを言う時が多いと感じます。どんなささいな作業でも、小さな決断の積み重ねで進んでいきます。打楽器を演奏している時に必要なのは、この「決断力」の最たるものだな、と感じることがあるのです。出番の直前までは、「この速さで、この楽器のメロディがあって、次に自分の出番だな」と理性を働かせながら、最終的には直感の塊となってドン!と飛び込む。その決断の積み重ねが、職場では業務を推進しているし、舞台上では音楽を先に進めている。そんなように感じながら、趣味の世界で磨いた「決断力」を、仕事でも活かしている(ような気分になっている)と思います。

さて、一打楽器奏者の戯言をお読みいただき、ありがとうございました。最後に、このような機会を与えてくださった職場の皆様と、仕事に趣味に没頭してちっとも家にいない妻/母である私を支えてくれている夫と娘に感謝して、筆をおくことといたします。これからも私の人生の三輪車(仕事/音楽/家庭)をぐんぐん加速させるべく、邁進してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

Timpanista