ホームIMICライブラリMMWR抄訳2011年(Vol.60)世界における10の偉大なる健康目標達成-2001~・・・
2011/06/24Vol. 60 / No. 24
MMWR60(24):814-818
Ten Great Public Health Achievements - Worldwide, 2001-2010
21世紀となったこの10年間(2001~2010年)に世界的に達成された健康目標について報告する。1)小児死亡率の低下: 現在の5歳未満の小児の死亡例は年間約810万人であり、この10年間で約200万人減少している。出生児1,000人あたりの死亡数は2000年:77から2009年:62と減少、1990年代における死亡率は1.3%/年の減少であったが、2000年以降は2.2%/年の減少となっている。これらの小児の死亡は約99%が低所得~中所得国にて起こっており、49%がサハラ砂漠以南のアフリカ諸国、33%が南アジアである。また、5歳未満の小児の死亡の原因は68%が感染症(下痢、肺炎、マラリア、AIDS)によるものであり、予防接種、微量栄養素補給、飲料水の安全性確保、殺虫剤処理した蚊帳、経口補液療法、抗生物質、抗マラリア薬、抗レトロウイルス療法などにより死亡例は減少している。2)ワクチンにより予防可能な疾患:この10年間において、麻疹、ポリオ、DTPワクチンの接種により5歳未満の小児の死亡が約250万人/年阻止されている。麻疹により死亡率はワクチン接種により2000年から2008年にかけて78%低下しており、ポリオに関しては風土病とする国が20ヶ国から4ヶ国への減少し、2010年の発症数は1500例以下となっている。B型肝炎、Hibワクチンの接種国は2000年にはそれぞれ107、62ヶ国であったが、2009年には178、161ヶ国へ増加、それぞれ毎年700,000、130,000人の死亡を阻止していると推定されている。さらに肺炎球菌、ロタウイルス、三日はしかワクチンの導入が世界的に進んでおり、日本脳炎、ヒトパピローマウイルス、A群髄膜炎菌結合型、腸チフスワクチンの導入も急速に増加している。3)安全な水および衛生設備へのアクセス:水による疾患、とくに下痢は小児の死因の第2位を占め、年間25億もの発症数を認めている。下痢は90%以上が不適切な水、衛生設備および衛生状態(WASH)によるものであり、5歳未満の小児約150万人/年が死亡している。世界的な人口増加に対し、水源や衛生設備の整備が追いついておらず、課題となっている。4)マラリア予防とコントロール:マラリアによる死亡数は世界的には第5位、アフリカでは第2位であり、発症数は2005年の24,400万人をピークに2009年には22,500万人となっている。1998年より始まったRoll Back Malaria Partnershipにより2003~2010年にかけて財政的支援が増加したため、死亡数は2000年:985,000例から2009年:781,000例へと21%減少している。5)HIV/AIDS予防およびコントロール:2009年末におけるHIV感染生存例は2001年の2,860万人より3,330万人に増加したと推定されており、うち68%(2,250万人)はサハラ以南のアフリカ諸国である。新規診断例は2001年:310万人から2009年:260万人へ減少、AIDS関連死亡者数も2004年の210万人をピークに2009年には180万人へ減少している。これはHIV検査、カウンセリング、母子感染予防などの介入措置、コンドームの使用、滅菌注射器の普及、血液の安全性および抗レトロウイルス療法(ART)の向上などによるものであり、これらの積極的介入の拡大により低所得および中所得国での死亡率が低下している。6)結核コントロール:過去10年間における結核新規診断例は8,100万人、死亡例は1,000万人である。WHOは1995年、直接監視下短期療法(DOTS)戦略を展開、これにより410万人が治癒、600万人に死亡が阻止されている。2000年以降、症例検出率および治療成功率は約20%増加しており、結核による死亡率は2015年には1990年代の約50%まで抑制されると推定されている。7)顧みられない熱帯病(NTD)コントロール:NTDは約10億人にて発症が認められており、メジナ虫症(ギアナ虫症)、回旋糸状虫症(河川失明症)、リンパ管フィラリア症に関しては根絶を目標としたプログラムが進行している。メジナ虫症の症例数は1986年、20ヶ国にて350万人と推定されていたが、フィルターの使用、水源の安全性確保、幼虫駆除剤の使用および水の濾過や汚染防止に関する教育の徹底により4ヶ国(南スーダン、マリ、エチオピア、ガーナ)を除き伝播が阻止され、2010年の発症数は1,797例となっている。1992年に開始されたアメリカにおける回旋糸状虫症根絶プログラムでは、薬物の大量投与により50万人の失明を阻止、2010年には新規例がなかった。また、リンパ管フィラリア症は2000年、12,000万人が感染、72ヶ国にて134,000万人が感染リスクにあり、薬物の投与を必要としていたが、この年より根絶プログラムが行われ、2007年までに新生児660万人での感染を阻止、950万人での発病を阻止し、3,200万障害調整生存年数を回避している。8)タバココントロール:2000年、煙草による早期死亡例は480万人であり、2010年には540万人に増加している。WHOは2003年、Framework Convention on Tobacco Control (WHO FCTC)を2010年までに168ヶ国、2011年6月までにさらに4ヶ国にて採択し、さらにMPOWER(喫煙モニタリング、煙からの保護、禁煙の推進、危険性の警告、販売禁止の徹底および税金の引き上げ)と呼ばれる戦略を展開している。9)世界的な道路の安全性向上のための認識と対応の強化:2001年、WHOは世界的な道路の安全性向上のための5年計画を開始、2001年から2009年にかけてEU諸国における交通事故による死亡者数は55,700名から34,900名へ減少し、死亡率が36%低下したが、世界中では約1,300万人(3,000名/日)が交通事故により死亡し、2030年には倍増すると推定されている。低所得国では自動車台数は全世界の半分以下であるが、死亡者数は約90%を占めており、経済発展とともにさらに激増すると思われ、道路設備や安全性の確保が急務となっている。10)世界的な健康脅威に対する備えと対応の改善:AIDS、SARS、インフルエンザなど、世界的に脅威となりうる疾患に対する準備および対応は、世界的流行を阻止する上で重要である。インターネットによる情報交換やCDCのGlobal Disease Detection Operation Center (GDDOC)などのネットワークによる新しい疾患の発生や拡大の検出、WHOと各国の保健省や研究機関との協力体制の強化などにより、2009年のインフルエンザA(H1N1)パンデミックでは迅速な対応が可能となった。数週間でウイルスが検出され、診断試薬は146ヶ国にて供給可能となり、34ヶ国の6,100名以上の専門家が検査および治療の指導にあたった。ワクチンはウイルス検出から20週間で開発され、86ヶ国での供給が可能となった。この教訓や経験をもとに、今後もさらに体制強化が進められる。
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