せりみっく 今月の症例

ホーム > 新着文献  > ベンザルコニウム塩化物による耳垂下顎部化学熱傷

ベンザルコニウム塩化物による耳垂下顎部化学熱傷

2023年9月掲載

薬剤 ベンザルコニウム塩化物一般用医薬品
副作用 耳垂下顎部化学熱傷
概要 19歳、女性。X日、自宅でピアッサーを用いて左耳垂にピアシングを行った。その後市販の消毒薬で消毒を行っていたが、X+1日から左耳垂周囲に発赤、疼痛が生じ増悪したため、消毒液を左耳全体に流しかけるように使用した。しかしながら症状は悪化し、X+5日より39℃台の発熱が出現したため、X+7日に当院を受診した。初診時、耳垂を中心とした顔面から頸部の局所に紅斑と熱感、腫脹、疼痛を認め、発熱とリンパ節腫脹を伴った。また血液検査にて好中球優位の白血球数上昇とCRP高値(1.43 mg/dL)を認めた。これらの所見から丹毒と考え、入院の上抗菌薬治療を開始した。しかし皮疹部では水疱と壊死組織が出現し、炎症反応の更なる上昇(CRP 13.0 mg/dL)を認めた。皮疹の形状の一部が直線的な形状を呈したこと等から外因的要素による可能性を疑い、再度詳細な問診を行った。その結果、自宅で繰り返し用いていた消毒液は10% ベンザルコニウム塩化物(BAK)であり、本来は希釈して使用するものを原液で使用していたことが判明した。以上の経過より10% BAK原液による化学熱傷と診断し、局所に対し連日洗浄、およびバシトラシン軟膏の外用を行った。第10病日には血液検査上、炎症反応は陰性化した。第45病日には皮膚の赤みと軽度萎縮を残したが、瘢痕化せずに上皮化を認めた。

監修者コメント

10% BAKは薬局等で比較的容易に購入できる弱アルカリ性の消毒薬であり、皮膚に対しては通常100~200倍に希釈して使用することが推奨されている。本症例は、10% BAKを希釈せずに使用し、耳垂下顎部に化学熱傷を生じた1例である。化学熱傷とは酸やアルカリなどの様々な化学物質による皮膚や粘膜の損傷である。本症例と同様にBAKを誤って高濃度で使用し、皮膚の化学熱傷をきたした報告は過去にもあり、注意喚起が必要である。

著者(発表者)
髙橋ちあきほか
所属施設名
済生会横浜市東部病院皮膚科ほか
表題(演題)
丹毒が疑われた塩化ベンザルコニウム原液による左耳垂下顎部化学熱傷の1例
雑誌名(学会名)
臨床皮膚科 77(6) 395-399 (2023)

新着文献 一覧

PAGETOP