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メトホルミンによる脳卒中様発作、感音性難聴

2022年3月掲載

薬剤 メトホルミンその他の代謝性医薬品
副作用 脳卒中様発作、感音性難聴
概要 48歳、女性。母親と母方祖母に難聴と糖尿病がある。5年前に職場健診で糖尿病を指摘された。来院6ヵ月前から近医でメトホルミン500 mg/日を開始され、その後1000 mg/日に増量、ビルダグリプチンも併用された。この頃から感音性難聴を自覚していた。X日、突然発症の運動性失語で前医に緊急入院し、左側頭葉病変を指摘された。途中、1回のけいれん発作を認めたためレベチラセタムも開始され、X+15日に退院となった。その翌日に運動性失語と右同名半盲、右半側空間無視が出現したため、当院に緊急搬送された。
頭部MRIで左側頭葉、後頭葉、頭頂葉病変を認め、同部位はMR spectroscopyで乳酸ピークを認めた。血清と髄液の乳酸、ピルビン酸値とL/P比の上昇も認め、ミトコンドリア病と診断した。治療としてエダラボン、L-アルギニン、タウリン、コエンザイムQ10の投与を開始した。てんかん発作が再燃する可能性も考えて前医からのレベチラセタムを継続した。糖尿病についてはメトホルミンを中止しビルダグリプチンを継続、インスリンを追加した。入院中、一過性に失語症の増悪と右片麻痺が出現したが、治療の継続により症状は軽快し、入院5週間後にリハビリ病院に転院となった。その後も当科外来でタウリン、コエンザイムQ10、L-アルギニン、レベチラセタムを継続している。

監修者コメント

本症例は、糖尿病に対するメトホルミンの投与により、感音性難聴、脳卒中様発作を生じたMELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes)の1例である。MELASは、低身長、全身性の筋萎縮、頭痛やてんかん発作などの脳症、乳酸アシドーシス、反復する脳卒中様発作を特徴とするミトコンドリア病である。メトホルミンは糖尿病の内服治療における第一選択薬に位置付けられており、頻繁に使用されている薬剤である。本症例においては、メトホルミンが乳酸上昇を介してミトコンドリア病を悪化させた可能性が考えられている。MELAS発症とメトホルミン使用に関する文献は本邦において存在せず、貴重な報告といえる。

著者(発表者)
白石渉
所属施設名
小倉記念病院脳神経内科ほか
表題(演題)
メトホルミンはミトコンドリア病患者の脳卒中様発作を誘発する
雑誌名(学会名)
脳卒中 43(5) 452-456 (2021.9)

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