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レトロゾールによる腫瘍崩壊症候群

2021年11月掲載

薬剤 レトロゾール腫瘍用薬
副作用 腫瘍崩壊症候群
概要 80歳代、女性。10cm大の左乳房腫瘤からの出血、皮膚自壊のため他院を受診するも、積極的な治療は希望されず経過観察していた。半年後、同部位からの出血、浸出液が多くなり、治療を希望されたため当院紹介受診となった。浸潤性乳管癌の診断となり、化学療法のような副作用の強い治療は希望されず、レトロゾールにて経過観察していく方針とした。
レトロゾール開始7日後、食欲不振、下痢の訴えがあり、血液検査にてWBC、BUN、Cr高値を認めたため、補液目的に入院加療とした。入院後2日目、さらにBUN、Cr、K、Ca、UA高値となり、著明な代謝性アシドーシス、凝固能の延長を認めた。腫瘍崩壊症候群とそれに伴う播種性血管内凝固症候群を疑い、レトロゾールの内服を中止し、それらに対する対症療法、維持血液透析を開始した。入院後3日目、代謝性アシドーシスの改善は乏しく、意識レベルはJCS100まで低下、高サイトカイン血症に伴う急性呼吸窮迫症候群により呼吸状態は増悪し、人工呼吸管理とした。腫瘍量減少目的に局所麻酔下左乳房切除術を行ったが、入院後4日目、全身状態の改善は認めず、血液透析での改善が見込めないと予想されたため、透析を中止した。その2時間後に死亡確認となった。

監修者コメント

アロマターゼ阻害薬であるレトロゾールは、閉経後乳癌の治療薬として用いられている。本症例は、レトロゾールにより腫瘍崩壊症候群を来たした局所進行乳癌の1例である。腫瘍崩壊症候群は、薬物療法による腫瘍細胞の急激な崩壊が原因で、細胞内の核酸、リン酸、カリウムなどが血中に放出されることにより、多臓器不全を起こしうる合併症である。固形癌での腫瘍崩壊症候群は稀であり、本症例のようにレトロゾールで腫瘍崩壊症候群を来した乳癌は、これまでに1例しか報告がなく、稀な症例といえる。

著者(発表者)
菊池雅之ほか
所属施設名
静岡赤十字病院外科ほか
表題(演題)
レトロゾールにより腫瘍崩壊症候群を来たした局所進行乳癌の1例
雑誌名(学会名)
第29回 日本乳癌学会学術総会 抄録集(Web) EP-16-3-16 (2021)
第29回 日本乳癌学会学術総会(2021.7.1-3)

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