スボレキサントによる抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
2021年2月掲載
薬剤 | スボレキサント中枢神経用薬 |
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副作用 | 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 |
概要 | 70歳代、男性。併存症として2型糖尿病があるがテネリグリプチン内服によりコントロールは良好であった。6ヵ月ほど前に出現した抑うつエピソードによって入院となった。入院後、ミルタザピンによる加療の結果抑うつは速やかに改善したが、熟眠障害が持続したため、第31病日よりスボレキサント15mgを開始した。軽度の倦怠感が出現し、第42病日にNa 124 mmol/Lと低値を認め、バソプレシンは1.4 pg/mLと閾値以上であるが他の所見に乏しかったため、水分制限、塩分追加で経過をみた。薬剤性抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)の可能性を危惧してミルタザピンを漸減中止とし、第58病日時点でNa 123 mmol/L、血漿浸透圧256 mOsm/L、バソプレシン1.1 pg/mL、尿浸透圧590 mOsm/Lであり、SIADHの確定診断に至った。その後も低Na血症が持続したが、第65病日よりスボレキサントを中止したところ、第71病日にはNa 132 mmol/Lまで改善し、徐々に正常化した。その後抑うつの再燃を認めたが薬物療法により軽快し、退院となった。 |
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オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントは不眠症の治療薬として用いられている。本症例は、睡眠障害を認めるうつ病患者にスボレキサントを投与したところ、SIADHを発症した1例である。発症の機序として、近年指摘されているオレキシンとバソプレシンの神経回路における相互作用が考えられている。一部の向精神病薬はSIADHを生じることが報告されているが、スボレキサントによるSIADHの報告は現時点ではなく、貴重な1例といえる。
- 著者(発表者)
- 高野学ほか
- 所属施設名
- 自治医科大学附属病院
- 表題(演題)
- スボレキサントによる抗利尿ホルモン不適合分泌症候群が疑われたうつ病の一例
- 雑誌名(学会名)
- 精神神経学雑誌(特別) S437 (2020)
第116回 日本精神神経学会学術総会(2020.9.28-10.31)
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