エリブリンによる血栓性微小血管障害症
2020年10月掲載
薬剤 | エリブリンメシル酸塩腫瘍用薬 |
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副作用 | 血栓性微小血管障害症 |
概要 | 69歳、男性。5年前に他院にて右膝窩部軟部肉腫の診断で広範切除を施行し、病理検査で粘液型脂肪肉腫と診断された。1ヵ月前、腹部CTにて後腹膜腫瘍を指摘され、粘液型脂肪肉腫の転移と診断された。腹腔内に転移病変が多発しており切除は困難であることから、全身化学療法目的に紹介となった。 入院1日目よりアドリアマイシンの投与を開始したが、効果判定はprogressive diseaseであった。入院49日目よりエリブリン(ハラヴェン®、1.4mg/m2)の投与を開始したが、発熱性好中球減少症となりday 8の投与は延期した。63日目にエリブリンを1.1 mg/m2に減量して投与を再開したが、65日目に乳酸脱水素酵素(LDH)および間接ビリルビンの上昇がみられた。血液中の破砕赤血球を伴う貧血もあることから溶血性貧血を疑い経過観察を行っていたところ、79日目に腎機能障害が出現した。溶血性貧血と血小板減少、急性腎不全の所見があることから血栓性微小血管障害症(TMA)と診断した。その後、自然経過により腎機能は回復傾向であった。経過からエリブリンによる薬剤性TMAが示唆されたため、他剤による治療を継続した。入院266日後に転院し、自宅療養を経て永眠した。 |
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エリブリンは、チューブリンの重合を阻害して微小管の伸長を抑制することでアポトーシスを誘導し、抗腫瘍効果を示す薬剤であり、乳癌や悪性軟部腫瘍の治療に用いられている。本症例は、粘液型脂肪肉腫腹腔内転移症例に対して投与したエリブリンにより、薬剤性TMAを発症した1例である。TMAは、血小板減少による出血傾向、破砕赤血球を認める溶血性貧血、および微小血栓形成による臓器障害を呈する予後不良な病態である。抗悪性腫瘍剤による治療中に貧血、血小板減少、LDHおよび間接ビリルビン値の上昇、破砕赤血球などを認めた際には、TMAの発症を疑い、薬剤を中止の上、適切な処置を行う必要がある。
- 著者(発表者)
- 島田剛志ほか
- 所属施設名
- 群馬大学医学部整形外科学教室
- 表題(演題)
- 粘液型脂肪肉腫腹腔内転移に対するエリブリン投与中に発症した血栓性微小血管障害症(TMA)の1例
- 雑誌名(学会名)
- 関東整形災害外科学会雑誌51(3) 229-233 (2020.6)
監修者コメント