A型ボツリヌス毒素による散瞳、調節障害
2020年5月掲載
薬剤 | A型ボツリヌス毒素末梢神経系用剤泌尿生殖器官及び肛門用薬 |
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副作用 | 散瞳、調節障害 |
概要 | 35歳、女性。幼少期から間欠性外斜視を指摘されていたが、最近になり複視の自覚と眼精疲労が気になってきたため、手術目的で当院を受診した。初診から2ヵ月後の右眼外直筋後転術時に外直筋へのA型ボツリヌス毒素(BTX-A)2.5単位注射を併用した。斜視が残存したため、その4ヵ月後に左眼にも外直筋後転と術中BTX-A注射を同様に行った。術後に左霧視と羞明の自覚があり、術2週後、左眼の中等度散瞳と調節力低下を認めた。塩酸ピロカルピン点眼で経過をみたところ、左眼の散瞳・調節力とも若干の改善を認めたが、術12ヵ月後でも瞳孔散大と調節力低下は持続していた。外直筋に注射した際のBTX-Aが毛様体神経節又はその節前・節後線維に直接影響を及ぼした可能性が考えられた。 |
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BTX-A(ボトックスⓇ)は神経筋接合部においてアセチルコリン放出を阻害し、筋収縮を抑制するため、眼瞼痙攣、斜視、顔面痙攣などの治療や美容目的(しわ、たるみとり)に使用されている。その効果は一般的に一時的であり、数ヶ月で減弱・消失する。本症例は、外斜視に対し、外直筋にBTX-Aを注射したところ、持続する散瞳を認めた稀な1例である。斜視における外眼筋へのBTX-A注射の副作用としては、眼瞼下垂や上下斜視などがあげられるが、散瞳・調節障害の報告はほとんどない。外直筋へのBTX-A注射後の散瞳は、稀な合併症ではあるものの、長期間持続または後遺症として残存する可能性があり、注射の際には十分な注意が必要である。
- 著者(発表者)
- 三好政輝ほか
- 所属施設名
- 兵庫医科大学病院眼科ほか
- 表題(演題)
- 外直筋後転術中A型ボツリヌス毒素注射により散瞳・調節障害を来たした1例
- 雑誌名(学会名)
- 神経眼科 36(4) 416-420 (2019.12)
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