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パクリタキセルによるアナフィラキシーショック

2013年8月掲載

薬剤 パクリタキセル腫瘍用薬
副作用 アナフィラキシーショック
概要 症例は女性。卵巣癌に対して単純子宮全摘術、両側付属器摘出術および大網部分摘出術を行った。癌性腹膜炎の状態で、粟粒大の播種巣が腹腔内全体に及んでいた。術後22日に、術後化学療法としてパクリタキセル/カルボプラチン療法を行った。パクリタキセル投与の前処置としてステロイドと抗ヒスタミン薬の投与を行った。パクリタキセル点滴静注開始約1分後に、患者は頻回のくしゃみをし、気分不良となった。また、顔面がやや紅潮した。以上の所見からアナフィラキシーショックと判断し、即座にパクリタキセル点滴を中止し、生理食塩水の輸液を開始したが、意識混濁となった。その後、カテコラミン等の処置にも拘わらず症状の改善はみられなかった。 FloTrac Systemを用いてStroke Volume Variation(SVV)の測定を行い、輸液量の指標のひとつとした。輸液を行うにつれてSVVは低下し、発症9時間後には正常範囲に落ち着いた。翌日にはDIC傾向は改善し、カテコラミンも漸減していくことができた。その後は順調に回復し、第15病日に退院となった。

監修者コメント

化学療法では、初回投薬時からアナフィラキシーが生じることがあり、タキサン系製剤、特にパクリタキセル投与時に高頻度に認められる。パクリタキセルは婦人科領域の悪性腫瘍、特に卵巣癌で使用頻度の高い薬剤である。パクリタキセルの添付文書によれば、過敏症の頻度は5~20%とされているが、パクリタキセルの含有物であるポリオキシエチレンヒマシ油が原因物質の1つであるとの報告と、パクリタキセルそのものに問題があるとの報告がある。パクリタキセル投与時にはステロイドおよび抗ヒスタミン薬の投与が推奨されているが、本症例のように適切に前処置を行った場合でもアナフィラキシーは起こりうるので注意が必要である。またFloTrac Systemは全身麻酔中の管理や集中治療の分野で主に使用され、心拍出量や1回拍出量呼吸性変動(SVV)を測定することができる。本症例のように重症アナフィラキシーショックを発症した患者には大量輸液が必要であるが、FloTrac Systemを用いたSVVの定期的な測定が適切な輸液管理に有効である。

著者(発表者)
清野学ほか
所属施設名
山形県立新庄病院産婦人科
表題(演題)
パクリタキセルによる重症アナフィラキシーショックの全身管理にFloTrac™System®が有用だった1例
雑誌名(学会名)
産婦人科の実際 62(5) 737‐739 (2013.5)

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