スルピリドによるQT延長症候群、意識障害
2013年7月掲載
薬剤 | スルピリド中枢神経用薬消化器官用薬 |
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副作用 | QT延長症候群、意識障害 |
概要 | 70歳代、男性。14年前より血液透析の導入とインスリン治療が開始されていた。1ヵ月前より浮動性眩暈、食欲減退及び低血糖があり、傾眠傾向が出現した。老年期精神疾患と診断され、当院転院13日前よりスルピリド150mgの内服が開始された。その後、自力歩行も困難となり、ついには呼びかけに応じられなくなったため、精査加療目的で当科に緊急搬送された。入院時のQTc554msecであり、600msecまで延長した。第3病日の髄液穿刺後にtorsades de pointesから心室細動に移行し、自動式体外除細動器(AED)で除細動された。スルピリド内服中止3日後の血中濃度が1.24μg/mLと高値で、50mg錠の最高血中濃度(0.16μg/mL)の約8倍、治療域上限(0.58μg/mL)の約2倍であったことから、薬剤性の意識障害およびQT延長症候群と診断した。コルチゾール1.0μg/dL、ACTH7pg/mLと副腎不全が判明、入院前の低血糖や精神症状も副腎不全の症状と推察された。第21病日よりヒドロコルチゾン90mg内服で開始し、徐々に漸減した。第43病日にはQTc426msecまで短縮し、第65病日に独歩退院できた。 |
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本症例は2型糖尿病にて14年前から維持透析およびインスリン治療が開始されていたが、老年期精神疾患に対してスルピリドを投与したところ、QT延長症候群からtorsades de pointes、心室細動に移行した一例である。後天性QT延長症候群の原因としては薬剤性、特に抗うつ薬が原因となるものが多い。また、本症例は透析患者であったため、腎排泄性であるスルピリドが常用量投与された結果、血中濃度が上昇したと推察される。スルピリドは精神疾患以外にも胃・十二指腸潰瘍などにも投与され、使用頻度の高い薬剤である。特に腎機能障害のある患者にスルピリドを投与する際には、腎機能を勘案して減量し、錐体外路症状やQT延長症候群などの発生に注意を払う必要がある。
- 著者(発表者)
- 押田裕喜ほか
- 所属施設名
- 前橋赤十字病院心臓血管外科
- 表題(演題)
- スルピリドによるQT延長症候群からtorsades de pointesを呈した1例
- 雑誌名(学会名)
- 心臓 45(4) 418-424 (2013.4)
監修者コメント