タクロリムスによる冠攣縮性狭心症
2017年8月掲載
薬剤 | タクロリムスその他の代謝性医薬品 |
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副作用 | 冠攣縮性狭心症 |
概要 | 36歳、女性。16歳時、特発性間質性肺炎と診断された。以後、低酸素血症のため入退院も繰り返していたが、心機能の異常や冠動脈石灰化は認めなかった。 36歳時に脳死右片肺移植が施行され、免疫抑制療法として術後よりシクロスポリン点滴静注を開始、術後第4病日よりタクロリムス経口投与に移行。ミコフェノールモフェチルとプレドニゾロンを併用した。術後呼吸状態は安定したが、第10病日に急性拒絶反応が出現した。タクロリムス血中濃度トラフ値が9.4 ng/mLとやや低値であったため投与量を2.0 mg/日から3.0 mg/日に増量。経過は良好であったが、第12病日にタクロリムス1.5 mg内服2時間後のリハビリ運動中、SpO2低下を伴う呼吸苦、前胸部痛があり意識を消失した。 トロポニンT軽度上昇ならびに心電図でのST変化、冠動脈造影の検査結果から冠攣縮性狭心症と診断。カルペリチド、ニコランジル持続静注とベニジピン投与を開始した。また、BNP 414.2 pg/mLと高値で心エコーにて左室前壁の壁運動低下があることから冠攣縮性狭心症後の心不全に伴う肺水腫と診断し、人工呼吸管理を行った。またタクロリムス血中濃度トラフ値が15.4 ng/mLと高値で2.5 mg/日に減量再開するも第14病日には19.6 ng/mLまでさらに上昇したため、目標トラフ値10~14 ng/mLに向け投与調節を行った。 人工呼吸器管理4日目に酸素化は改善し、人工呼吸器を離脱、第78病日に退院となった。肺移植から2年経過した後も再発を認めず、心機能も良好である。 |
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カルシニューリン阻害薬であるタクロリムス(プログラフ®)は、臓器移植における拒絶反応の抑制などに広く使用されている。カルシニューリン阻害薬の副作用として心血管系の有害事象は知られているが、本症例のような肺移植後における冠攣縮性狭心症の発症はほとんど報告されていない。高血中濃度のタクロリムスによる血管収縮作用が冠攣縮を惹起した可能性が示唆されている。タクロリムスの血中濃度の調節は移植後の管理において重要であり、その副作用として冠攣縮性狭心症が発症する可能性があることに十分に注意する必要がある。
- 著者(発表者)
- 東郷威男ほか
- 所属施設名
- 東北大学加齢医学研究所呼吸器外科分野ほか
- 表題(演題)
- Tacrolimusによる冠攣縮性狭心症を発症したと考えられる肺移植後の1例
- 雑誌名(学会名)
- 移植 52(1) 67-72 (2017.4)
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