インフルエンザワクチンによる慢性炎症性脱髄性多発神経炎
2013年7月掲載
薬剤 | インフルエンザワクチン生物学的製剤 |
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副作用 | 慢性炎症性脱髄性多発神経炎 |
概要 | 71歳、女性。両下肢遠位のしびれを生じ、約1カ月で自然軽快したが、末端のみの症状が残存した。3年8カ月後にインフルエンザHAワクチンを接種したところ、18日目より足底のしびれを自覚し増悪、両膝下まで拡大、感覚低下・筋力低下も生じ歩行困難となったため接種50日目に入院となった。深部腱反射は消失、MMT4程度の遠位優位筋力低下、手袋靴下型の異常感覚・全感覚低下をみた。抗ガングリオシド抗体が陽性で、髄液検査では細胞数1個/mm3、蛋白72mg/dL、糖71mg/dLと蛋白細胞解離を示した。ひ腹筋神経生検では有髄線維密度の低下と神経束内の浮腫を、電子顕微鏡でonion bulbとnaked axonがみられ、慢性、急性の脱髄を示唆する所見であった。入院10日目から免疫グロブリン大量療法を行ったところ四肢の異常感覚・筋力低下は速やかに改善し歩行可能となった。感覚障害が残存したため入院28日目よりステロイドパルス療法を2コース施行し、下肢末端の異常感覚のみを残し、入院41病日に退院した。 |
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本症例では、インフルエンザワクチン接種後に両下肢の筋力低下、感覚障害から歩行困難となり、髄液の蛋白細胞解離、抗ガングリオシド抗体陽性などの所見から、慢性炎症性脱髄性多発神経炎と診断された。また、約3年前にも両下肢遠位のしびれを認め、末端のみ症状が残存していたことから、ワクチン接種を契機とした再発が疑われた。インフルエンザワクチン接種が慢性炎症性脱髄性多発神経炎の発症に関与したという報告は稀である。慢性炎症性脱髄性多発神経炎の既往のある患者はインフルエンザワクチンを接種する際に十分に注意する必要がある。インフルエンザに限らず、ワクチン接種を行う際には、そのriskとbenefitを慎重に検討すべきである。
- 著者(発表者)
- 諸岡真理ほか
- 所属施設名
- 東京逓信病院神経内科ほか
- 表題(演題)
- インフルエンザワクチン接種後に増悪した慢性炎症性脱髄性多発神経炎の1例
- 雑誌名(学会名)
- 日本内科学会雑誌 102(4) 963-965 (2013.4)
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