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ロクロニウムによる高血圧クリーゼ

2020年12月掲載

薬剤 ロクロニウム末梢神経系用剤
副作用 高血圧クリーゼ
概要 68歳、男性。神経線維腫症1型および高血圧で近医を受診していた。5年前より健康診断で心房細動が指摘され、経皮的心筋焼灼術目的で紹介となった。しかし治療前検査で左副腎褐色細胞腫が見つかり、内科的治療が行われた。心房細動に対する経皮的心筋焼灼術を行った後に、腹腔鏡下副腎摘出術が予定された。
全身麻酔の導入としてレミフェンタニルの投与を開始し、プロポフォール、酸素、セボフルランを投与した。マスク換気が容易であることを確認してロクロニウム40mgを投与したが、投与後15秒程度で心拍数の異常な上昇を認め、さらに上昇を続けた。高血圧クリーゼの可能性を考え、フェントラミン、ランジオロールを投与した。その後、血圧は徐々に変動前まで低下し、気管挿管を行った。その後も術中操作に伴う非観血的血圧、心拍数の急激な上昇を認めたが、フェントラミン、ニカルジピン、ランジオロール投与で対応し、左副腎摘出後は循環の大きな変動は消失した。抜管後、脳血管障害を疑わせる所見なく集中治療室に帰室した。

監修者コメント

褐色細胞腫は副腎髄質や傍神経節などのクロム親和性細胞から発生し、カテコールアミンを産生する神経内分泌腫瘍である。褐色細胞腫が高血圧クリーゼを起こす機序としては、腫瘍からの急性的なカテコールアミンの放出以外に、ストレス、疼痛、薬物などによる交感神経刺激が関連すると考えられている。本症例では、全身麻酔導入時に筋弛緩剤であるロクロニウムを投与した後に、高血圧クリーゼを発症しており、ロクロニウムの関与が強く疑われている。褐色細胞腫患者の麻酔導入時には、麻酔導入前の観血的動脈圧測定を含む十分な循環モニターの確立、導入中の十分な麻酔深度、そして降圧薬や昇圧薬の準備を行うことが重要である。

著者(発表者)
西田隆也ほか
所属施設名
高槻病院麻酔科ほか
表題(演題)
全身麻酔導入時にロクロニウムによる高血圧クリーゼが疑われた褐色細胞腫患者の麻酔経験
雑誌名(学会名)
麻酔 69(8) 855-860 (2020.8)
第64回 日本麻酔科学会関西支部学術集会(2018)

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