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レンバチニブによる心筋障害

2020年9月掲載

薬剤 レンバチニブ腫瘍用薬
副作用 心筋障害
概要 71歳、女性。甲状腺乳頭癌およびその肺転移と診断され、甲状腺全摘出術を施行した。2年8ヵ月後に膵臓の腫瘍を認め、甲状腺乳頭癌の転移と診断された。レンバチニブ24mg/日で内服を開始し、肺転移巣および膵臓転移巣はともに縮小傾向となった。内服開始後の2ヵ月間で高血圧や下痢などの有害事象が出現したため、8mg/日まで減量した。しかし内服開始8ヵ月後に下痢と食欲不振が出現し遷延したため、2週間休薬した後4mg/日で内服を再開した。
再開3日後に労作時呼吸困難が出現した。逸脱酵素の上昇と脳性ナトリウム利尿ペプチドの異常高値より、急性心不全と診断された。冠動脈CTにて冠動脈に狭窄を認めず、CPKも正常値であったことから、原因としてレンバチニブによる心筋障害が最も疑われた。レンバチニブを休薬し、血管拡張剤(ニトロール®)と利尿降圧剤(ラシックス®)を投与したところ、症状は速やかに改善し逸脱酵素も正常化した。心筋障害発生の1ヵ月後にレンバチニブ4mg/日を隔日内服で再開したが、心筋障害の再燃はない。

監修者コメント

マルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブは、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体を含む複数の受容体チロシンキナーゼを阻害することで抗腫瘍効果を発揮する分子標的薬である。本薬剤は甲状腺癌や肝細胞癌に対する抗腫瘍効果が認められている一方で、有害事象が高率に発現することも報告されている。その中で致死的となり得るものの1つが、心不全や心機能障害などの心毒性である。本薬剤により心筋障害を発症する頻度は非常に低いが、致死的となり得る合併症であり、本薬剤の投与中に呼吸困難などの症状を認めた場合には、心筋障害も考慮し、投与を中止するなどの適切な処置を行う必要がある。

著者(発表者)
松尾美央子ほか
所属施設名
九州大学耳鼻咽喉・頭頸部外科
表題(演題)
レンバチニブ投与中に心筋障害を発症した甲状腺癌例
雑誌名(学会名)
耳鼻咽喉科臨床113(5) 309-314 (2020.5)

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