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アドレナリンによるwide QRS頻拍

2020年9月掲載

薬剤 アドレナリンホルモン剤(抗ホルモン剤を含む)
リドカイン・アドレナリン末梢神経系用剤
副作用 wide QRS頻拍
概要 77歳、女性。既往歴に脂質異常症があり、常用薬はなかった。また、40歳時に狭心症疑いとの指摘を受けたが、その後現在まで胸痛などの症状は出現していなかった。今回、左側上顎歯肉悪性腫瘍に対して全身麻酔下に左側上顎部分切除術、全層植皮術が予定された。術前検査では、血液、心電図、肺機能、胸部エックス線写真に異常は認められなかった。
麻酔維持は空気5L/分、酸素1L/分、セボフルラン1.2%、レミフェンタニル塩酸塩0.1~0.2μg/kg/分で行った。手術による鼻腔からの出血予防のため、1/100,000アドレナリン溶液に浸漬したガーゼ(以後、ボスミンガーゼ)を左側鼻腔内へ挿入した。その5分後、術野に1/100,000アドレナリン含有1%リドカインが1回5mLの分量で1分間隔に2回、浸潤麻酔された。浸潤麻酔から5分後の上顎歯肉切開時、心電図上にwide QRS頻拍が出現した。手術中断後、wide QRS頻拍は自然に停止して洞調律に回復した。ボスミンガーゼを除去し手術を再開した。以降、浸潤麻酔時には1/200,000アドレナリン含有1%リドカインを1回5mLで使用し、循環動態は安定していた。手術終了後、異常な心電図波形は認められなかった。

監修者コメント

アドレナリンは強力な血管収縮作用を持つため、手術時の出血軽減を目的として広く用いられているが、不整脈や心停止などの重篤な副作用をきたすことがある。本症例は、左側上顎歯肉悪性腫瘍に対する手術の全身麻酔中に、出血軽減の目的で投与したアドレナリンにより、wide QRS頻拍を発症した1例である。wide QRS頻拍のうち、特に心室頻拍は致死的な不整脈であるため、迅速な対応が必要である。アドレナリンは吸入麻酔薬との相互作用により不整脈閾値を低下させることが知られている。投与時にはアドレナリン誘発性不整脈が生じる可能性を念頭に置き、心電図などにより慎重な経過観察を行うことが重要である。

著者(発表者)
宇佐美奈由香ほか
所属施設名
大阪大学大学院歯学研究科口腔科学専攻高次脳口腔機能学講座(歯科麻酔学教室)ほか
表題(演題)
出血軽減の目的でアドレナリンを投与した後にwide QRS頻拍を発症した1症例
雑誌名(学会名)
日本歯科麻酔学会雑誌48(2) 63-65 (2020.4)

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