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アドレナリン含有局所麻酔薬によるたこつぼ型心筋症

2020年5月掲載

薬剤 アドレナリン含有局所麻酔薬(リドカイン・アドレナリン)末梢神経系用剤
副作用 たこつぼ型心筋症
概要 51歳、男性。健康診断で睡眠時無呼吸症候群を指摘され、内視鏡下副鼻腔手術が予定された。執刀開始前に10万倍希釈アドレナリン含有1%リドカインを2倍に希釈し、計2.5 mL(アドレナリンにして0.0125 mg)を鼻粘膜に局所注射した。約2分後、多源性の上室性および心室性期外収縮を伴う心拍数120~140 beats・min-1の頻脈となり、収縮期血圧は90 mmHgから201 mmHgへ上昇した。2%リドカインの静注で洞調律に回復し、ランジオロールの静注で心拍数は低下した。その後、術中に同濃度のアドレナリン含有リドカインが2回局所注射された(アドレナリンにして0.0225 mg、ならびに0.01 mg)が、心拍数・血圧ともに著しい変化はなかった。
しかし、手術室退室前にT波の平低化とQT延長を認め、術後に血圧低下と労作時呼吸困難も発症した。心電図では広範囲なT波の陰性化、心エコーでは左室中部から心尖部の壁運動低下を認めた。緊急冠動脈造影で有意狭窄病変は認めず、術後6日目に左室壁運動異常は正常化し、9日目に軽快退院となった。以上の経過から、発症期は不明であるものの、アドレナリンの投与がたこつぼ型心筋症の契機になった可能性が高いと考えられた。

監修者コメント

たこつぼ型心筋症とは、心尖部を中心とした左心室壁に一過性の無収縮領域が認められ、冠動脈には原因となる器質的な病変を認めない病態を総称する症候群である。左室造影像が「たこつぼ」に似ていることが病名の由来になっている。
本症例は、アドレナリン含有局所麻酔薬の局所注射により、たこつぼ型心筋症を発症したと考えられる1例である。たこつぼ型心筋症による死亡例の報告もあるため、アドレナリンの局所投与を行う際には、本副作用が発現する可能性にも十分に注意する必要がある。

著者(発表者)
黒田皓二郎ほか
所属施設名
JA尾道総合病院麻酔科
表題(演題)
術野でのアドレナリン含有局所麻酔薬の注射を契機に発症したと思われるたこつぼ型心筋症の1症例
雑誌名(学会名)
麻酔 69(1) 75-78 (2020.1)
第37回 日本臨床麻酔学会学術集会 (2017)

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