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ホスホマイシンによる出血性大腸炎

2013年5月掲載

薬剤 ホスホマイシン抗生物質製剤
副作用 出血性腸炎
概要 30歳、男性。下痢にて近医受診。胃粘膜保護薬、整腸薬、ホスホマイシンを投与された。その後、下痢症状はやや軽快したが、近医受診4日後に急激な腹痛と血便を認め、当院に緊急搬送となった。腹部は平坦、軟であったが、全体的に自発痛、圧痛があった。腸雑音は軽度低下し、トマトジュース状の血便を認め、大腸内視鏡所見では盲腸からS状結腸にかけて発赤を伴う浮腫状粘膜を連続的に認めた。特に、上行結腸ではその浮腫状粘膜の影響で内腔の軽度な狭小化を示した。発赤の強い上行結腸およびS状結腸からそれぞれ生検を施行したところ、腺管は変性、脱落し、一部では形が残存したまま脱落するghost-like appearanceを呈していた。間質は浮腫状変化および血管拡張がみられ、軽度炎症細胞浸潤を認めた。画像検査および病歴より抗生物質起因性出血性大腸炎が第一に考えられたため、ホスホマイシンの内服中止とレボフロキサシン500mg/dayおよび抗菌薬耐性乳酸菌製剤の投与を開始。入院翌日には腹痛は改善傾向を示し、第4病日には症状消失した。その後経過良好にて第8病日に退院した。入院時検査にてClostridium difficile トキシン、真菌、病原性大腸菌、ウイルス等はいずれも陰性であったが、Klebsiella oxytoca が検出された。ホスホマイシンに対するDLSTを施行したところ陽性を示した。以上よりホスホマイシンを起因薬剤とする抗生物質起因性出血性大腸炎と診断した。

監修者コメント

ホスホマイシン(FOM)は多くの腸管感染症に対して投与される薬剤であるが、本症例はFOMを起因薬剤とする抗生物質起因性出血性大腸炎と診断された1例である。発症機序としてはDLSTが陽性であったことなどから、本薬剤によるアレルギー反応から腸管の血管攣縮を生じ虚血性病変が形成される結果、出血性大腸炎を生じたことが推測される。薬剤性腸炎の起因薬剤となる抗生物質はペニシリン系が圧倒的に多く、FOMによる出血性大腸炎の報告は稀である。腸管感染症に対してFOMを投与する際には出血性大腸炎の起因薬剤となる可能性を認識する必要がある。

著者(発表者)
楠本智章ほか
所属施設名
同愛会博愛病院内科ほか
表題(演題)
ホスホマイシン経口投与にて惹起された抗生物質起因性出血性大腸炎の1例
雑誌名(学会名)
Gastroenterological Endoscopy 55(2) 294-299 (2013.2)
第107回 日本消化器内視鏡学会中国地方会

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