ホームIMICライブラリMMWR抄訳2024年(Vol.73)イヌでの疾患アウトブレイク中におけるヒトでのレプト・・・
2024/07/11Vol. 73 / No. 27
MMWR73(27):602-606
Human Case of Leptospirosis During a Canine Disease Outbreak — Wyoming, 2023
レプトスピラ症は発熱、悪寒、筋肉痛、悪心、嘔吐、下痢、頭痛、ふくらはぎ痛、結膜充血を特徴とする人獣共通の急性細菌感染症である。潜伏期間は通常5~14日間、ヒト症例では90%が無症状または軽症の自然軽快する疾患であるが、重症化した場合は多臓器不全や死に至ることもある。2023年8月、ワイオミング州保健局(WDH)は1983年以降、州で初発例となるレプトスピラ症のヒト症例の通知を受けた。レプトスピラ症は浸潤で温暖な地域でよくみられ、ワイオミング州は乾燥して降水量の少ない気候であるため、リスクが低い地域と考えられている。WDHによる患者調査では、患者は初期の徴候および症状およびとして、体の痛み、発熱、悪心、発汗があった。それから2日後に一時的に意識を失い、救急科にて血管迷走性神経失神に対しアトロピンと静脈内輸液を受け退院となった。その2日後に症状が悪化し、ふくらはぎ痛、息切れ、咳、頭痛、結膜充血、下肢浮腫、立ちくらみなどの症状を来し、ブレインフォグと報告された。患者には職業的なイヌとの接触があり、他にリスク因子はなく、原因不明で死亡した3頭を含む複数のイヌの体液に職業的に曝露していた。患者はレプトスピラ症と一致する症状を示し、職業上のリスクも複数の医療従事者に伝えていたが、発症8日目まで検査は行われなかった。検査ではレプトスピラ属細菌に対する免疫グロブリンM抗体が検出され、発病11日目にドキシサイクリン経口投与を開始し(100mg、1日2回、7日間)、1日後には退院できるほど回復した。患者の発症日、地元の動物病院にて3頭のイヌがレプトスピラ症と診断された。ワイオミング州ではイヌのレプトスピラ症はまれであり、報告義務がないが、獣医師は疾病率増加の懸念からState Animal Health Official(SAHO)に報告した。SAHOは州全体の動物病院にイヌのレプトスピラ症に関する自主的な報告を要請し、2023年8月~10月に計13頭のイヌのレプトスピラ症が報告された。罹患したイヌには嘔吐、嗜眠、食欲減退などの非特異的な徴候および症状がみられ、すべてのイヌが高尿素窒素血症(腎障害による血中尿素窒素値および血清クレアチニン値の上昇)を来し、4頭は安楽死または重症化し死亡した。3頭がレプトスピラ症の確定例、10頭が可能性例の症例基準を満たした。獣医の記録ではイヌの症例は患者が働いていた市全体に広がっており、うち5頭は疫学的に同じ犬舎に関連し、1頭は水たまりの水を飲んだ可能性があった。アウトブレイク前の3カ月間、発生地域では平均降水量の2倍近い降水があり、環境中にレプトスピラ属細菌が増加したことが関与した可能性もあった。罹患したイヌのうち3頭が凝集試験にて高い抗体価(1:800以上)を示したが、このアウトブレイクで感染したイヌはいずれもレプトスピラ症のワクチン接種は受けていなかった。WDHおよびSAHOによる調査ではヒトでの追加症例は報告されておらず、WDHは地域の医療提供者にアウトプレイクに関する警告をし、SAHOは動物病院と預かり施設に通知をした。WDHおよびSAHOは疫学的に関連性を認めた犬舎を査察し、すべてのイヌにレプトスピラ症のワクチン接種を義務付け、水たまりをなくす、適切な清掃および消毒、病気のイヌの隔離、個人的防護具の使用などを推奨した。公衆衛生対策の一環として、2022年10月~2023年1月(アウトブレイク前)と2023年10月~2024年1月(アウトブレイク後)におけるイヌレプトスピラ症ワクチン接種率の変化を評価するため、ワイオミング州内の動物病院に調査を広げ、症例の出た市の動物病院10施設中6施設、地方の郡の8施設が回答した。症例の出た市の回答した動物病院では全施設でアウトグレイ後に飼い主にワクチン接種を勧める頻度が高くなった(8.3%から80.0%)。アウトグレイ後は接種に同意する飼い主の推定割合も増加し(32.5%から51.5%)、定期予防接種受診時にイヌの33.1%がレプトスピラ症のワクチンを接種した(前年5.4%)。地方の動物病院ではアウトブレイク前後ともに50%~60%のイヌがワクチン接種し、飼い主のコンプライアンスも高く、7つの病院では接種を勧めた時に飼い主の推定90%~100%が接種に同意した。今回のアウトブレイクはスピルオーバー事象(動物からヒトへの感染)が生じたと考えられ、人獣共通感染症への対応時にはワンヘルス(人間、動物、とりまく環境へのアプローチなど)の協力が重要であることが示された。また、動物のワクチン接種はアウトブレイクのコントロール、レプトスピラ症のスピルオーバー予防に役立つ可能性がある。
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