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MMWR抄訳

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2023/08/04Vol. 72 / No. 31

MMWR72(31):838-843
Fleaborne Typhus–Associated Deaths — Los Angeles County, California, 2022

ノミ媒介チフスによる死亡 ― カリフォルニア州ロサンゼルス郡、2022年

Rickettsia typhiに起因するベクター媒介性人畜共通感染症として広く流行するノミ媒介チフス(発疹熱)は、重症度は中等度であるが、まれに致死性となることがあり、カリフォルニア州では届出が必要な疾患である。2010年以降にロサンゼルス郡ではノミ媒介チフスの報告症例数が増加し、2022年には171例報告された。今回、2022年6~10月、ロサンゼルス郡公衆衛生局に報告されたノミ媒介チフスによる死亡3例の臨床像、疾患の経過、用いた診断法について述べる。患者Aは68歳のヒスパニック系男性。びまん性リンパ節腫脹、肥満、2型糖尿病、末梢血管疾患などの病歴あり。2022年6月、3日間の発熱と進行性下肢脱力のため救急科を受診した。貧血と肝酵素増加があり、敗血症の診断にて入院となり、広域スペクトラム抗菌薬が投与された。患者の精神状態は悪化し、目を覚ますことが困難となった。入院8日目、低血圧と心房細動が出現し、集中治療室に転室し、翌日に低酸素血症性呼吸不全を呈し、人工呼吸器を装着し、ストレス量のステロイドが投与された。入院9日目の骨髄生検では血球貪食を認め、入院16日目に血球貪食性リンパ組織球症(HLH)と診断された。KariusテストにてR. typhi陽性となり、入院18日目にドキシサイクリンが投与された。入院24日目に人工呼吸器を抜管、29日目に多臓器不全を来し、30日目に死亡した。死因はノミ媒介チフスによるHLHと敗血性ショックであり、げっ歯類およびノミへの曝露の可能性として、患者の自宅が高速道路とゴミ置き場に近いことが考えられた。患者Bは49歳のヒスパニック系女性。肥満、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病などの病歴あり。2022年8月、2日間の頭痛と発熱のため受診した。SARS-CoV-2検査結果は陰性であり、アレルギー性鼻炎と推定され、抗ヒスタミン剤とステロイド点鼻薬が処方された。5日後、発熱、悪寒、寝汗、頭痛、背部痛のため救急科を受診し、静脈内輸液により症状が改善したが、翌日、血小板減少、低カリウム血症、肝酵素増加を認め、敗血症と診断され入院となった。入院2日目、上室性頻拍と2度の心停止エピソードを来し、心臓カテーテル検査にてストレス心筋症が認められた。頭痛、発熱、トランスアミナーゼ上昇から、ノミ媒介チフスの可能性が考慮され、ドキシサイクリンが投与開始された。その後、患者は多臓器不全を来し、入院3日目に死亡した。剖検にて直接の死因は心筋炎と確定され、チフス群Rickettsiaの免疫組織化学的検査では、心臓微小血管の内皮細胞とそれほど多くはないが肝臓類洞腔内皮細胞にリケッチア抗原の多巣性染色を認めた。ノミへの曝露の可能性には、自宅の裏庭に野良子猫が住み着いていたことが含まれた。患者Cは71歳のヒスパニック系男性。ホームレス経験とアルコール使用障害の既往あり。2022年10月、同じ地面の場所に24時間横たわっており、救急車にて搬送された。発熱、失見当識、低血圧、頻呼吸、心房細動、貧血、血小板減少、白血球減少、乳酸アシドーシス、肝酵素増加、脚および体幹部に点状出血性皮疹を認め、髄膜炎、ノミ媒介チフス、神経梅毒が疑われ、治療を開始したが、入院2日目に低酸素血症、4日目に低酸素血症性呼吸不全となり、人工呼吸器を装着した。多臓器不全と播種性血管内凝固が悪化し、入院5日目に死亡した。死亡診断書には敗血症性ショック、高カリウム血症、乳酸アシドーシスが死因として記載された。患者が住んでいた野営地にてノミやげっ歯類に曝露した可能性もあった。近年はノミ媒介チフスの症例が急増しており、最近の研究ではロサンゼルス郡での2022年における致命率は1.8%であった。この増加の原因の1つの可能性として郊外におけるネコノミ(Ctenocephalides felis)の流行がある。他に可能性のある原因としては、都市部および郊外における齧歯類での保菌の増加がある。ノミ媒介チフスを予防するワクチンはなく、ペットへの動物用ノミ駆除・予防薬を使用することでヒトへのノミ曝露リスクが低減する可能性がある。また、医療従事者は発熱、頭痛、発疹などがある患者で、特にノミ媒介チフスが流行している地域に居住または最近旅行した患者または感染源となる動物への曝露した患者ではノミ媒介チフスの可能性を考慮すべきである。

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