デバネズミダイアリー

第3回: 暑くてじめじめした、快適な住まい

2021.04.21 Wed

動物

摂氏30度、湿度55パーセント。高温多湿なアフリカの地下に暮らすデバたちに、気候が大きく異なる日本で快適に過ごしてもらうには、温度と湿度を一定に保つための設備が必要となります。2018年熊本大学に完成した飼育施設は、1500匹を飼育できる規模をほこります。現在は約700匹を飼育中。北海道大学から移動した際には、約260匹でしたから、3年も経たずに3倍近くまで増えました。寒い北海道でも、摂氏30度、湿度55パーセントという飼育室の環境は同じでしたので、もしかすると「熊本の水が合った」ということかもしれません。デバは水を飲まず、餌からのみ水分を摂るので、言葉としてはちょっとおかしいのですが……。暖かい九州で育ったおいしい野菜が好影響を与えている可能性はあるかもしれません。

デバ飼育室の温湿度管理装置の操作盤です。異常があると警告音が鳴り響きます。温度と湿度は季節に合わせて設定を微調整しています。

飼育用アクリルケージを設置するのはメタルラックです。4段ありますが、一番上はそのままでは手が届かないので、使用前のケージ置き場などに利用しています。掃除の際にはキャスターのロックを外して移動させ、床を掃いたあとに薬液で拭きます。

餌として与えているのは、サツマイモ、ニンジン、リンゴ、それにバナナ。野生のデバは、イモや地下茎を食べているので、サツマイモが最も自然状態に近い餌かもしれません。他にも、手に入りやすく、自然の餌に近いものとして、ジャガイモとゴボウを与えていた時期もありましたが、用意する手間を考慮して種類を絞り、この4種類の野菜・果物に落ち着きました。リンゴとバナナは野生で口にすることはなさそうですが、デバも甘い物を好むようで、食いつきが良いというのが面白いです。バナナは食べやすくて栄養価が高いので、出産直後にお祝いの気持ちを込めつつ、体力を回復させるためにあげていたこともありました。栄養バランスを考えて、その他に、オートミールとマウス用固形餌も与えています。

キャスター付きメタルラックにカットした野菜と果物を入れた容器を載せ、移動しながら給餌します。コロニーには大小があるので匹数に合わせた量を見積もり、清潔な手袋をつけた手でつかんで何回か入れますが、2匹だけのペアケージには、適量になるように野菜の個数を数えて与えていきます。ケージの数が多いので大変な作業です。洗面器には水で練ったオートミールとバナナが入っています。

小さなオートミールを両手で掴んで食べています。サツマイモにはデバの出っ歯で削り取った後が見えます。

リンゴを抱えて食べています。上下の出っ歯の間から舌がのぞいているのが、かわいらしいですね。果汁をなめているようにも見えます。

マウスとの大きな違いは、前述したように、水を飲まないという点です。乾燥地帯の地下の環境に適応した結果なのかもしれません。もちろんデバにも水分は必要ですが、野菜に含まれる水分でまかなっているようです。マウスであれば、自ら給水器から水を飲み、セットした固形餌を食べてくれるので、餌遣りにあまり手間が掛かりませんが、デバではそうはいきません。適度な大きさにカットした野菜を、人の手でケージに入れてやらなければなりません。水分を含んだ生野菜は日持ちしないため、月、水、金と、餌遣りは一日おきです。給餌できない土日の分も合わせて金曜日は3日分となるので、かなりの分量に。また、カットした野菜は時間が経つほど干からびていくため、だんだん食べてくれなくなります。毎日給餌したほうが、新鮮な餌をたくさん食べて成長も早くなり、さらに繁殖が進みそうですが、今のところは順調に増えているので、このスタイルが定着しています。

研究室のデバは実験動物であり、その姿を愛でるためのものではありませんが、ペットや動物園の動物と同様、食事風景は見ていて楽しいものです。マウス用のような、扱いやすい人工餌の開発も進めていますが、栄養価の面で、本物の野菜・果物には叶わないようです。

以前は包丁とまな板を使って切っていましたが、デバの匹数増加に合わせて大量の餌を用意しなければならなくなり、現在では業務用野菜カッターを活用しています。

カットしたサツマイモ、ニンジン、リンゴはプラスチックケースに入れます。もう少し頭数が増えたら、2個目のケースが必要になりそうです。

飼育用アクリルケージは、脱走を防ぐためにフタを閉めてあります。これを開けて餌を与えるのですが、フタが開くと餌がもらえることがわかっているようで、腹を空かせたデバたちが集まってきます。顔を上げて餌を待つデバたちのピヨピヨという声がひときわ大きく聞こえます。

餌が投入されたケージでそのまま食べるデバもいれば、野菜を咥えて移動してから食べようとするデバもいます。空いている場所でゆっくり食事したいのでしょうか。

餌を求めて集まったデバでトンネルがぎゅうぎゅう詰めになり、サツマイモを運び出すのに失敗!デバたちの様々な行動が見られるのが餌遣りの楽しみです。

餌がケージの片側にまとまっていたため、偶然ですが、デバたちは並んで食べることになりました。そこから別の部屋にサツマイモ運んでいくところをカメラで追っていきます。一カ所に入れると餌を求めるデバの「渋滞」が起こるため、大きなコロニーの場合、餌を分けていくつかの部屋に入れ、食べやすいようにしています。

ケージ内にある木くずのようなものは「床敷」です。いわば布団代わりとして保温に役立つので、さまざまな小動物の飼育に使われますが、排泄物で汚れていくため、交換する必要があります。餌遣り前には、古くなった餌と一緒に汚れた床敷を取り除き、新しい床敷を入れてやります。床敷交換のときは、人間の手が入ってくるので、巣に何者かが侵入したように感じるのでしょうか。デバたちは慌ててわさわさと走り回ります。

新しい床敷を入れると、デバたちは脚で蹴って移動させていきます。左の部屋から右の部屋へと蹴っていくデバもいれば、右の部屋から左の部屋へと蹴っていくデバもいて、どういうルールになっているのかわかりません。しばらくすると落ち着きます。

床敷を激しく蹴り上げています。野生では、トンネルを掘った際に出た土を巣穴から地上に蹴り上げるので、巣穴の入口を火口に見立てて、「ボルケーノ(火山)」と呼ばれています。飼育しているデバも同じような行動を取ることがあります。あまり見られないので出会ったら得した気分になりますが、あとで掃除が大変です。

しっかりした作りのアクリルケージで飼育していますが、デバの穴掘り行動によって隅っこが削られていき、いつかは穴があいてしまいます。特注のケージはそれなりのお値段がしますが、デバにとっては大切な「お仕事」なので、目をつぶるしかありません。

ケージはデバの糞尿で汚れていくので定期的に交換し、洗浄・消毒する必要があります。飼育室内のメタルラックの一番下の段にとりあえず置いておき、洗浄室のシンクに移動して洗剤とスポンジで擦り洗いします。これも大変な作業です。

飼育室に入らなくても見学できるように、観察窓を設置しています。白衣や帽子をつけなくても、普段着のまま、実験室からデバの様子を見ることができます。

デバたちの健康を守るために、常に清潔を保つことが大切です。飼育担当者は、白衣、帽子、マスクをつけ、手袋をしてアルコール消毒したうえで、餌遣り、掃除などのお世話をします。アクリルケージは汚れていくので、定期的に交換し、洗浄・消毒・乾燥して再利用。飼育には手間とお金がかかりますが、デバたちが健やかに育ち、数を増やしていってくれることが、われわれの研究を進めるためにとても重要なのです。

アクリルケージはデバが傷を付けてスリガラス状になるため、使っているうちに見えづらくなってしまいます。そこで、新品のケージを撮影用として特別に設置しました。さまざまな角度から撮影したデバの様子をお楽しみください。

熊本大学 老化・健康長寿学講座 (くまもとだいがく ろうか・けんこうちょうじゅがくこうざ)

三浦恭子が主宰する、通称「デバ研」。 日本で唯一、研究用としてハダカデバネズミを飼育している。2018年春、1500匹まで飼育可能な施設を建造し、順調に繁殖を進めている。飼育と研究には多大な費用がかかるため、一般の方からの寄付を募集しています。詳細は、研究室ホームページをご覧下さい。

BACKNUMBER

デバネズミダイアリー

第3回: 暑くてじめじめした、快適な住まい

2021.04.21 Wed / 熊本大学 老化・健康長寿学講座

第2回:不平等な階級社会が健康長寿の秘訣?

2019.07.19 Fri / 熊本大学 老化・健康長寿学講座

第1回: ハダカで、デッパで、ネズミです

2019.03.06 Wed / 熊本大学 老化・健康長寿学講座

記事一覧へ