デバネズミダイアリー

第2回:不平等な階級社会が健康長寿の秘訣?

2019.07.19 Fri

動物

一目見たら忘れられない衝撃的な外見を持ち、小さく弱々しく見えるのに驚きの健康長寿人生を送る、という特徴のほかに、デバが他の動物と大きく異なるのは「真社会性」と呼ばれる分業制社会を営むことです。

・繁殖する個体が限定されており、不妊の個体が多数存在する。
・2世代以上が共存している。
・協力して仔育てを行う。

というのが、真社会性の定義です。具体的には、群れに1匹だけ存在する女王のみが、1~3匹いる王と交尾して仔を作る一方で、その他の個体(兵隊・ワーカー)は自分では繁殖せず、仔育てを含めた仕事を共同で行い、コロニーの運営に協力する、というのがデバ社会のありようなのです。

階級ピラミッド

デバ社会を階級ピラミッドとして表現するとき、女王が至上、王がそれに次ぐというのは納得できる。でも、兵隊とワーカーは、どちらが上とも言えないのでは? と、平和国家・日本に住む市民には疑問かもしれない。デバたちは幼少時には皆がワーカーとして働き始め、成長後、兵隊のポジションが空いている場合に兵隊になるという段取りを踏むようだ。ただし、兵隊とワーカーの役割ははっきり分かれているわけではないと考えられる。兵隊も普段はワーカーとしての仕事をすることもあるし、ワーカーも非常時には兵隊として戦うこともある。また、体の大きさは、女王>兵隊>ワーカーなので、階級ピラミッドでもこの順番にしているとご理解ください。

「人間は社会的動物である」という有名なフレーズがありますが、繁殖する個体、繁殖しない個体が階級として決まっているわけではないので、真社会性動物とはいえません。真社会性を持つ生物としてよく知られているのは、ハチやアリ、シロアリといった昆虫の一部です。脊椎動物では、ハダカデバネズミと近縁種のダマラランドデバネズミなどデバネズミ科の数種類しか見つかっていません。デバが真社会性を持つことが報告されたのは1981年のことでした。

なぜ、デバは真社会性を持つに至ったのでしょうか? 確かなことはわかりませんが、 「仔が成長後も巣を出ていかないほうが生存に有利だった」という仮説があります。デバが暮らすのは東アフリカの乾燥地帯ですが、地下トンネルは温度湿度が安定し、外敵が侵入しづらいという点で生存に有利な環境です。一方で、地下で餌を探すのは困難な作業です。あまり植物が生えていない乾燥地帯で、闇雲に穴を掘っていっても餌になる植物の根に遭遇する確率はとても低い。そこで、大勢で手分けして食べられる植物を探し出し、誰かが餌を見つけたらそれを分け合うという戦略が有効となります。そうした中で、次世代のデバが巣を後にして新たなつがいを作り、新居を構えて独立しようとしても、成功率は低いだろうと想像できます。成長後も親の巣に居続けることを選択した仔は、協力して餌を探したり、トンネルを掘ったり、弟妹たちの育児をしたりしているうちに、母親が次の仔たちを出産し、 群れの個体数は増えていきます。群れのメンバーは皆が血の繋がった家族=遺伝的に近い個体ですから、危険を冒して巣の外に飛び出し自分自身の仔をもうけるリスクを取るよりも、繁殖力の高い母親(女王が代替わりしたら、叔母、姉、妹、姪かもしれません)に、どんどん子どもを産んでもらってそのお手伝いをしていたほうが、遺伝子を残すのに効率がいいと考えられます。そうした傾向を持つ集団が進化の過程で生き残りやすく、段々と集団内での分業化が進んでいき、繁殖個体と多くの不妊階級からなる大家族によって構成される階級社会が成立した、というのです。

動画の冒頭で「デバ団子」の一番上にいる中央の個体がつがる女王。他のデバを威嚇するシーンや、歩き回ってコロニー内を監視している様子が伺える。

では、どのデバが女王になるのでしょうか。今のところ、遺伝的な違いは見つかっておらず、女王になる個体が生まれつき決まっているのではなく、いちばん強いメスが女王になるとされています。女王は代替わりします。ある日、何らかの原因で女王が不在になります。ケガを負って血を流して死んでいた場合(のちの新女王による下克上かもしれません)もありますし、まれに原因がわからないまま冷たくなっているときもあります。あるいは、実験の都合などでコロニーから隔離されて戻らないといったことも、飼育下ではあり得ます。しばらくして、以前はワーカーだったメスの誰かが妊娠・出産します。真社会性動物であるデバは群れの中で1匹しか出産しないので、出産した個体イコール女王と判明します。例えば、多産だった華子女王は2016年8月5 日にケンカが原因とみられるケガで崩御。その4か月後に、華子の娘「H32」が9匹の仔を産んだので、彼女が新女王(華子2世)として即位したと判断しました。娘による下克上の疑いが高い交代劇でした。

ところで、女王以外のメスは交尾せず繁殖しないといっても、どういうメカニズムでその状態を維持しているのかははっきりしません。「女王が威嚇して回ることで真社会性の秩序が保たれる」とした論文はありますが、大きいものでは全長数キロのトンネルの中に300匹もの個体が暮らしているコロニーで、現実的にそんなことが可能なのか、疑問が残ります。性成熟を抑えるホルモンがワーカーの脳でたくさん出ていることはわかっているようですが、女王のにおいが付いた床敷や糞尿と一緒に隔離したメスは性成熟することから、糞尿などに含まれる物質が原因ではないだろうと報告されています。つまり、女王の個体そのものと同居していなければ、性成熟が抑制されないようなのですが、それが何によって引き起こされているのか、研究が待たれます。

左から登場して小さいデバたちを踏んづけて走って行くのがポポ女王。トンネル内で行き違いになるときは、上位の個体が下位の個体の上を通ると言われているが、階級差によるというより、物理的に体が大きい方(=階級が高い)が上を通るのが自然だというだけのことかもしれない。

兵隊デバは巣の防衛を担当します。野生のデバの天敵は蛇で、巣に侵入されたら大惨事になること間違いなし。しかし、デバの戦闘力では蛇を必ず撃退できるわけではなく、戦いに負けた兵隊デバは真っ先に蛇に食べられてしまいます。兵隊デバが蛇と戦っている間に、進入口から巣の奥に繋がるトンネルを、他のデバたちが急いで崩して封鎖することで巣を守ります。けなげなことに、たとえ勝てなくても、兵隊デバは自ら食べられてしまうことで時間を稼ぎ、コロニーを守っているのです。また、他の群れのデバが侵入を試みることもあるようです。飼育環境下では蛇や他の群れのデバがコロニーに侵入することはないので、どのデバが兵隊なのかを判別するのは難しいのですが、ワーカーと比べて体が大きく、普段あまり働いていない、という特徴があります。

背中が赤くマーキングされているポポ女王が、デバたちの上に乗り、「肉ぶとん」で暖を取って睡眠中。不届き者の若いデバが、寝ている女王を踏んづけて歩いているのが面白い。

ワーカー(働きデバ)は、餌集め、穴掘り、掃除、育児といった様々な仕事に従事し、コロニーの日常生活を回しています。赤子は離乳すると、小さなモノを運んだりして甲斐甲斐しく働き始めます。研究室のデバたちは、生まれも育ちもアクリルケージの中です。興味深いことに、リアルな地面にトンネルを掘った経験が無いにもかかわらず、アクリルケージの隅っこ目掛けて、激しく穴掘り行動をとります。これは生得的な行動なのでしょうか。アフリカの大地を離れた後も、先輩ワーカーから代々受け継がれ学習されてきた後天的な習性という可能性もあるかもしれません。今のところ、生まれたばかりのデバを母親から引き離して単独で育てることは不可能なので、どちらかなのかを確かめることはできません。

自慢の出っ歯を押しつけ口を開け閉めして土を削りつつ、前足を激しく動かして掘り進み、後ろ足で掘った土を蹴り出す。2匹が交代で、競うように穴掘りをしている(つもり)。

他のデバのシッポを引っ張って無理矢理移動させた。こうした行動はよく見られるが、他の個体の労働を妨害すれば集団の利益に反するのに、なぜこんなことをするのか説明がつかない。懸命に穴掘り行動をしている個体を排除した後に、シッポを引っ張った個体がそれ以上に激しく穴掘り行動を始める場面を見かけるので、もしかしたら、「おまえの働き方は生ぬるい!俺にやらせろ」と言いたいのかもしれない。
参考 https://www.soken.ac.jp/news/6030/

さて最後に、女王の夫、すなわち王について。女王が交尾を求める鳴き声(mating call)を発すると、王はそれに応じて交尾を始めます。交尾には体力が必要らしく、王はだんだん痩せていくことが多いです。極端に痩せたデバがいたら、病気のデバでなければ、それが王です。あるいは病気の王かもしれません。王はテストステロンという男性ホルモン値が高くなりますが、これが免疫系を抑制して病気にかかりやすいのではないかと考える人もいます。

トイレ部屋で脱糞中のあずき女王の夫君。やせ衰えており、見ていていたたまれない気持ちになる。脱糞する様子も、どこかもの哀しい。ちなみに、女王には名前(女王の名前=コロニーの名称として管理している)を付けているが、王には全てのデバと同様のアルファベットと数字を組み合わせたナンバーが与えられているだけで固有の命名はされず、便宜的にあずき王などと呼ばれている。

「がんにならずに健康長寿」という医学的にとてもキャッチーな特長を持つハダカデバネズミ。真社会性は、一見これとは関わりないように見えます。しかし、70年も生きるオーストラリアのシロアリの女王の例のように、真社会性動物は長寿化する傾向があります。デバの場合、地下生活が真社会性成立のきっかけになり、真社会性が地下生活の効率化と継続性を高め、その結果、地下の低酸素環境に適応するとともに、気温が一定の地下にいるために恒温機能が弱まって変温性になった、と推測されます。この低酸素適応と変温性が、がん化耐性・老化耐性の獲得に、何らかの影響を与えている可能性もあります。

階級社会は不平等ではありますが、それぞれのやるべきことが決まっており、安定した社会だともいえます。女王の座を巡る争いはありますが、下々のデバたちはシッポの引っ張り合いをする程度。血の繋がった大家族に囲まれ、協力しながら迷うことなく日々の仕事に励んでいます。争わなくてもいい、という安心感も、もしかしたら、デバたちの健康長寿の秘訣のひとつなのかもしれません。

最初の写真で紫色の手袋の上にいるのは、エリザベス女王(通称エリーちゃん)です。威厳に満ちた顔つきをしていると思いませんか。2002年6月6日生まれの17歳。当研究室のデバの中では最年長、といっても、30年生きるデバとしてまだ若く、今後の繁殖も期待できます。生後すぐに右後ろ足の先を失うというハンディキャップを負いながらも女王に就任しましたが、2011年に引っ越した際のストレスで最愛の夫が死んでしまいました。その後、何度もお見合いを繰り返していますが、相性が悪いのかペアにしたオスとの間に仔が生まれないまま、埼玉→東京→札幌→熊本と、私とともに全国を移動してきました。再び繁殖して新たなコロニーを築いてもらえるように、そろそろ夫を新しいのに取り替えてあげようかな、と考えているところです。

三浦 恭子 (みうら・きょうこ)


1980年生。熊本大学 老化・健康長寿学講座 准教授。
2010年京都大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士(山中伸弥・岡野栄之両教授に師事)。
慶應義塾大学医学部生理学特別研究助教、北海道大学遺伝子病制御研究所講師、准教授を経て、2017年より現職。