デバネズミダイアリー

第1回: ハダカで、デッパで、ネズミです

2019.03.06 Wed

動物

私たちが研究対象としているのは、ハダカデバネズミという齧歯類です。体毛のないハダカのボディと、湾曲した長い出っ歯が名前の由来で、その上には豚のような鼻がつきだしています。この外見をキモチワルイと思うか、カワイイと感じるか。見た目の珍妙さに負けず、哺乳類としては非常に珍しい特徴を持っています。

熊本大学にある研究室に併設した飼育室でこの奇妙な動物を飼育しながら研究しているので、残念ながら自然の中で暮らす彼らの様子をお見せすることはできません。このコラムでは、ハダカデバネズミ(通称デバ)の生態を、飼育環境下における写真と動画でお伝えしていこうと思います。

アクリルの飼育ケージの中でくつろぐデバ

生息地は、アフリカの角とよばれる地域(エチオピア、ソマリア、ケニア)です。地中にトンネルを掘って巣穴を作り、植物の根や根菜類を食べて生きています。英名のnaked mole rat(ハダカ モグラ ネズミ)は、この点に注目したネーミングでしょう。巣穴のトンネルの全長は3キロメートルにも達するそうです。ここで、数十匹から300匹ほどの群れを作って暮らしています。地中の気温は安定しており、年中摂氏30度程度に保たれているため、毛皮が必要なくなったとも考えられています。巣穴には、細いトンネルで結ばれた大小の部屋があり、トイレや寝室といった区別がされています。

トンネルでは方向転換が難しいことも。
バックでも前進するのと同じくらいのスピードで移動できる。

寝室(ネスト)となった飼育ケージで折り重なって睡眠中のデバたち

狭い地下トンネルでの集団生活という生育環境に適応した結果が、このキモカワイイ姿だと言えるでしょう。身を寄せ合って暖を取るので、寄生虫が潜みやすい毛皮はむしろ不要。土を掘り進んで餌を探すためには、大きく頑丈な歯が欠かせません。暗闇の中では見えないので、目は退化して小さく、視力もほとんどないそうです。一方で、匂いは情報を得るための手段としての価値が高いせいか、鼻には存在感があります。ハダカとは言いますか、実はアンテナのような役割を果たす「感覚毛」があちこちに生えています。狭い場所でぶつかったり引っかかったりしても大丈夫なように、体は柔らかく、皮膚にたるみがあるため、表面はしわしわしています。19世紀に発見された当初は、病気で毛が抜けてしまったか、まだ毛が生えそろっていない個体であって、これが通常の姿だとは思われなかったそうです。

穴を掘るための大きな出っ歯は、唇を突き破る形で生えている

視力は明るさを感じる程度。耳は尖っておらず小さい

暗闇では匂いが指針となるため豚のような大きな鼻を持つ

周囲の様子を探るための「感覚毛」が体のあちこちにある

暗闇に適したコミュニケーション方法として、デバたちは音声を用います。鳴き声はヒトの耳でも聞こえる周波数なので、飼育室に入ると、あちこちから「ピヨピヨ」といった音が聞こえます。外見からは想像しづらい、小鳥のようなかわいらしい鳴き声です。鳴き方には17種類あり、状況に合わせた音声を出すと言われています。怒ると、「ブッブッ」とブーイングするように鳴きます。

短期間取り出された後にケージに戻したところ。平常時よりも大きな声で鳴いている

さて、このデバたちを大規模な施設を整備して飼育し、研究する理由は、見た目が珍しくて可愛いから、ではありません。体長は10センチほどでマウスとほとんど同じなのですが、寿命がとても長く、マウスが3年ほどなのに対して、その10倍、約30年も生きるのです。しかも、その生存期間の8割の期間は、活動量、繁殖能力、心臓拡張機能、血管機能などにおいて、老化の兆候を示さないことが報告されています。加齢に伴って死亡率が上昇することもありません。

人間の寿命が100歳だとすると、80歳まで若い頃と変わらない体を保つという、まさに「健康長寿動物」。飼育下で、ほとんど発がんが確認されていない「がん化耐性」も注目されています。これらの機能を実現している分子生物学的なメカニズムを解明して、人類の未来に貢献することこそ、我々の使命なのであります。

三浦 恭子 (みうら・きょうこ)


1980年生。熊本大学 老化・健康長寿学講座 准教授。
2010年京都大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士(山中伸弥・岡野栄之両教授に師事)。
慶應義塾大学医学部生理学特別研究助教、北海道大学遺伝子病制御研究所講師、准教授を経て、2017年より現職。