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胸腺腫、胸腺がん

概説

このセクションの要点
  • 胸腺腫、胸腺がんは胸腺の表層に悪性(がん)細胞が生じる病気です。
  • 胸腺腫は筋無力症や他の自己免疫疾患に関係しています。
  • 胸腺腫、胸腺がんを疑う症状としては、咳や胸痛があります。
  • 胸腺腫、胸腺がんを発見するために、胸腺の検査が行われます。
  • 胸腺腫と胸腺がんは、通常、病状と病期を診断し、治療がなされます。
  • 諸条件により予後(治癒の可能性)や治療法の選択が変わります。

胸腺腫、胸腺がんは胸腺の表層に悪性(がん)細胞が生じる病気です。

胸腺は胸骨の裏に位置する小さな臓器で、リンパ系の一部分です。胸腺はリンパ球と呼ばれる白血球をつくっており、リンパ球は感染から体を守ります。

胸腺の腫瘍には、異なるタイプがあります。胸腺腫と胸腺がんは、胸腺の表層細胞にはほとんど腫瘍がありません。胸腺腫の腫瘍細胞は、胸腺の正常な細胞に似ていますが、ゆっくりと増殖し胸腺の外にはめったに移転しません。これに対し、胸腺がんの腫瘍細胞は、胸腺の正常細胞と異なり、急速に増殖し、がんが発見されるときには通常、体の他の部位にまで移転しています。胸腺がんは、胸腺腫よりも治療が困難です。

小児における胸腺腫、胸腺がんの詳しい情報は、PDQの小児にまれながんの項を参照してください。

胸腺腫は筋無力症や他の自己免疫疾患に関係しています。

胸腺腫の患者さんが自己免疫疾患を持っている場合もよくあります。これらの病気は免疫系が正常組織や臓器を攻撃することにより起こります。
  • 重症筋無力症。
  • 自己免疫性赤芽球癆。
  • 低ガンマグロブリン血症。
  • 多発性筋炎。
  • エリテマトーデス
  • 関節リウマチ
  • 甲状腺炎
  • シューグレン症候群

胸腺腫、胸腺がんを疑う症状としては、咳や胸痛があります。

胸腺腫と胸腺がんは、時として症状がない場合があります。がんは、定期的な胸部X線検査において発見されることがあります。次の徴候は、胸腺腫、胸腺がんやその他の状況によって引き起こされることがあります。次のような問題が起こった場合は、医師の診断を受けてください:
  • 持続する咳。
  • 胸部痛。
  • 呼吸困難。

胸腺腫、胸腺がんを発見するために、胸腺の検査が行われます。

以下の検査や手法が用いられます:
理学的所見および既往歴:
全身を調べて、一般的健康状態をチェックするとともに腫瘤または増殖など疾患徴候をチェックします。また患者さんの生活習慣や過去の疾患、治療の病歴についても調べます。
胸部X線検査:
胸部に簡単なX線照射を行い、胸部とその内部構造のX線像を調べます。X線とは体内を通過してフィルム上まで達し、体内を撮影することができるエネルギービームの一種です。
CTスキャン(CATスキャン):
いろいろな角度から体内の詳細な像を連続的に撮影します。像はX線撮影装置と連動したコンピュータにより作られます。造影剤を静脈内に注入または飲みこむと、臓器や組織がよりはっきり示されます。この方法はまたコンピュータ断層撮影法、またはコンピュータ体軸断層撮影法(CAT)とも呼ばれています。
MRI(核磁気共鳴画像法):
磁石、電波、コンピュータを用いて、胸郭などの体内領域の一連の詳細な画像を撮影する方法です。この検査は核磁気共鳴画像法(NMRI)とも呼ばれています。
PETスキャン(陽電子放射断層撮影):
体内にある悪性がん細胞を見つけ出す手法です。少量の放射性核種グルコース(糖)を静脈内に注入します。PETスキャナーが体の周囲を回って、グルコースが体内のどこに使われているかを撮影します。悪性がん細胞は、正常細胞よりも活発で、グルコースを多く吸収することから、より明るく映ります。

胸腺腫と胸腺がんでは、通常、診断、病気分類、治療を手術の際に行われます。

腫瘍の生検は、病状診断のために利用されます。生検は、手術(縦隔鏡検査あるいは縦隔切開術)の前または手術中にサンプル細胞を採取するために、細い針を使用して行われます。これは細針穿刺吸引(FNA)生検と呼ばれます。時々、サンプル細胞を採取するために太い針を使います。これはコア生検と呼ばれます。病理医がサンプルを顕微鏡下で観察し、がん細胞があるかどうかを調べます。胸腺腫または胸腺がんと診断された場合、病理医は腫瘍にあるがん細胞の種類を判断します。胸腺腫の中には、一つ以上のがん細胞が存在する可能性があります。外科医は、手術による腫瘍の部分的除去または全面除去を決定します。リンパ節とその他の組織も除去する場合があります。

諸条件により予後(治癒の可能性)や治療法の選択が変わります。

予後(治癒の可能性)や治療法の選択は以下によって異なります。:
  • がんの病期。
  • がん細胞の種類。
  • 手術による腫瘍の完全除去の有無。
  • 患者さんの一般的健康状態。
  • がんの既往歴または再発歴。

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病期

このセクションの要点
  • 胸腺腫または胸腺がんを判断する検査とともに、病期の判断も行われます。
  • がんが体内に拡がる方法は3通りあります。
  • 胸腺腫の病期は以下の通りです:
    • I期
    • II期
    • III期
    • IV期
  • 胸腺がんは、通常診断時には体の他の部位にまで転移しています。

胸腺腫または胸腺がんを判断する検査とともに、病期の判断も行われます。

病期の診断は、がん細胞が胸腺から体の他の部位に拡がっているかを調べる目的で行います。手術中の発見、検査結果と処置は、病期の決定に用いられます。処置方法の決定のために、病期の把握は重要です。

がんが体内に拡がる方法は3通りあります。

がんが体内に拡がる方法は以下のように3通りあります:
  • 組織を透過して、がんが周囲の正常組織に侵入します。
  • リンパ系を透過して、がんがリンパ系に侵入し、リンパ管を経て体内の他の部分に移動します。
  • 血液を透過して、がんが静脈と毛細血管に侵入し、血液を経て体内の他の部分に移動します。
がん細胞が原発部位(初めの腫瘍)から離脱してリンパや血液を経て体内の他の部分に移動すると、別の腫瘍(二次性腫瘍)を形成するかもしれません。この過程を転移と読んでいます。二次性腫瘍(転移性腫瘍)は原発部位の腫瘍と同じタイプのがんです。例えば、もし乳がんが骨に転移するのなら、骨のがん細胞は実際に乳がんのがん細胞です。その病気は骨のがんではなく、転移性乳がんです。

胸腺腫の病期は以下の通りです:

I期
I期では、がんが胸腺内にのみ認められる場合です。すべてのがん細胞は、胸腺をつつむ被膜(嚢)に存在しています。
Ⅱ期
Ⅱ期では、がんは胸腺周囲の脂肪組織や胸腔表面層におよびます。
Ⅲ期
Ⅲ期では、がんは肺や心嚢、心臓へ血液を運ぶ心血管といった胸郭に近接する臓器におよびます。
IV期
Ⅳ期は、がんの進行具合により、IVA期とIVB期に分けられます。
  • IVA期では、がんは肺や心臓の周囲にまで広範囲におよんでいます。
  • IVB期では、がんは血管やリンパ系にまでおよんでいます。

胸腺がんは、通常診断時には体の他の部位にまで転移しています。

胸腺腫に使用される病期分類システムは、胸腺がんに使用されることもあります。

再発

胸腺腫や胸腺がんは、治療後に再びがんが生じる(再発する)病気です。胸腺や体の他の部位に再発する場合があります。胸腺がんは、通常再発します。胸腺腫は、長期間を経た後、再発の可能性があります。がんが胸腺腫にできた後は、別の種類のがんを持つ危険性が増加します。以上のような理由から、生涯にわたる病気のフォローアップが必要とされています。

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治療法の概要

このセクションの要点
  • 胸腺腫と胸腺がんの患者さんに対し、異なる治療法があります。
  • 4種類の治療法が用いられます:
    • 手術療法
    • 放射線療法
    • 化学療法
    • ホルモン療法
  • 新たな治療法が臨床試験において研究されています。
  • 臨床試験に参加したいと考える患者さんがいるかもしれません。
  • がんの治療を始める前、または始めるか、治療を始めた後に患者さんは臨床試験に参加することができます。
  • フォローアップ検査が必要になるかもしれません。

胸腺腫と胸腺がんの患者さんに対し、異なる治療法があります。

胸腺腫と胸腺がんの患者さんに対して、異なる治療法があります。ある治療法は標準的(現在使用中の治療法)であり、ある治療法は臨床試験において研究されています。治療法についての臨床試験は、現在行われている治療法の改善や、がん患者さんの新しい治療法に対する情報を得るために入手することを目的とする調査研究です。現時点で標準的とされている治療法よりも新しい治療法の方が良いと示された場合、今度は新しい治療法が標準的治療法になる可能性があります。 臨床試験に参加したいと考える患者さんがいるかもしれません。いくつかの臨床試験は治療を始めていない患者さんにのみ開かれています。

4種類の標準的治療法が用いられます:

手術療法
腫瘍を取り除く手術療法は、胸腺腫の中でもっとも一般的な治療法です。
医師が手術の際に目にみえるがんをすべて摘出したとしても、なお残存しているがん細胞を殺すために一部の患者さんに対して手術後に放射線療法の行われることがあります。再発のリスクを下げるために手術後に行われる治療法をアジュバント療法といいます。
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーX線やその他の種類の放射線を用いてがん細胞を殺すかまたは成長させないでおくがん治療のことです。放射線療法には2つのタイプがあります。体外照射は体外の機械を用いてがんに放射線を照射する治療法です。体内照射は放射性物質を密封した針、シーズ、ワイヤ、カテーテルをがんの内部またはその近くに直接留置して、がんに放射線を照射する治療法です。どの方法の放射線療法が用いられるかは治療されるがんのタイプと病期によって異なります。
化学療法
化学療法は、薬剤を用いてがん細胞を殺すかまたは細胞分裂を停止させることでがん細胞の増殖を停止させるがん治療のことです。口から服用したり、筋肉や静脈内に注入する化学療法では、薬剤は血流を通って全身のがん細胞に影響します(全身化学療法)。脳脊髄液、臓器、腹部などの体腔に薬剤を直接注入する化学療法では、薬剤は主にこれらの領域中にあるがん細胞に影響します(局所化学療法)。化学療法はがんの種類や病期によって異なります。

化学療法は手術療法か放射線療法の前に癌を小さくするのに行われることがあります。これはネオアジュバント療法と呼ばれます。
ホルモン療法
ホルモン療法は、ホルモンを取り除き、作用を阻害し、がん細胞の増殖を停止させるがん治療です。ホルモンは体の「腺(せん)」と呼ばれるところから出る物質で、血流の流れに乗って体内を循環しています。あるホルモンの存在により、特定のがんが増殖する原因となります。検査により、がん細胞の表面にこうしたホルモンに付随する物質(これを受容体といいます)が存在すること分かった場合、ホルモンの生成を減少するまたは作用できなくするために薬剤、手術、放射線治療が行われます。
コルチコステロイドと呼ばれる薬剤を使用するホルモン療法が、胸腺腫や胸腺がんの治療に利用されることがあります 。

その他の治療法は現在、臨床試験で有効性を検証中です。

このまとめのセクションでは、現在臨床試験を行っている治療法について触れますが、最新の臨床試験をすべて網羅できていない可能性があります。実施されている臨床試験についての情報はインターネットでNCI Web siteにアクセスすれば、入手できます。

臨床試験に参加したいと考える患者さんがいるかもしれません。

何人かの患者さんにおいて臨床試験に参加することは最良の治療選択であるかもしれません。臨床試験はがんの研究過程の一つです。臨床試験は新たな治療法が標準的な治療法より安全で有効であるかを見つけ出すために行います。

がんに対する今日の標準的な治療法の多くは早期の臨床試験を基本にしています。臨床試験に参加する患者さんは標準的な治療を受けるか、初めて新しい治療を受けることになるかもしれません。

また、臨床試験に参加する患者さんは未来のがん治療法の改良を助けます。新しい治療法の臨床試験が有効性を示さなくても、しばしば重要な疑問の答えとなり、研究が前進するのを助けます。

がんの治療を始める前、または始めるか、治療を始めた後に患者さんは臨床試験に参加することができます。

いくつかの臨床試験はまだ治療を受けていない患者さんを含んでいます。他の試験はがんが回復していない患者さんに対する治療を評価します。がんが再発する(再起する)のを止めるか、がん治療の副作用を軽減する新しい方法を評価する臨床試験もあります。

臨床試験は国の多くの地域で行われています。治療法の項での現在の治療法の臨床試験へのリンクを参照してください。NCIの臨床試験リストから取り出してきます。

フォローアップ検査が必要になるかもしれません。

がんを診断するために行われた、あるいはがんの病期をみつけるために行われた検査が繰り返されるかもしれません。いくつかの検査は治療がどれぐらいよく効いているかをみるために行われるでしょう。治療を続ける、変更するか止めるかどうかの判断がこれらの検査結果を基に行われるかもしれません。これらはときどき再病期診断と呼ばれます。

いくつかの検査は治療が終わった後に時々継続して行われるでしょう。これらの検査結果は状態が変化したかどうか、またはがんが再発(再起)したかを示すことができます。これらの検査は時々、フォローアップ検査か定期検査と呼ばれます。

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病期別治療法

現在行われている臨床試験の検索結果へのリンクは各治療の項目に記載されています。いくつかのがんの種類や病期については、試験がリストされていないことがあります。リストされていなくても、実施されていると思われる臨床試験については主治医に相談してください。

I期、II期胸腺腫

I期胸腺腫の治療法は手術です。

II期胸腺腫の治療法は手術後の放射線療法です。

現在、米国でI期胸腺腫Ⅱ期胸腺腫の患者さんを受け入れている臨床試験があるかどうかNCIのがん臨床試験リストから確認してください。 試験の場所、治療の種類、薬剤名など研究の他の特徴から研究を詳細に知ることが出来ます。臨床試験に関する一般的情報はNCI Web siteから入手可能です。

Ⅲ期、IV期胸腺腫

手術により完全に除去し得るIII期胸腺腫とIV期胸腺腫の治療法には次のようなものがあります:
  • 放射線療法を併用または非併用する手術。
  • ネオアジュバント化学療法後に放射線療法を併用または非併用する手術。
  • 抗がん剤の新しい組み合わせや投与量の臨床試験。
  • 新しい方法で行う放射線療法の臨床試験。
手術によっても完全に除去することができないIII期胸腺腫とIV期胸腺腫の治療法には次のようなものがあります:
  • ネオアジュバント化学療法後に手術および/または放射線療法。
  • 放射線療法。
  • 化学療法。
  • 抗がん剤の新しい組み合わせや投与量の臨床試験。
  • 新しい方法で行う放射線療法の臨床試験。
現在、米国でⅢ期胸腺腫IV期胸腺腫の患者さんを受け入れている臨床試験があるかどうかNCIのがん臨床試験リストから確認してください。 試験の場所、治療の種類、薬剤名など研究の他の特徴から研究を詳細に知ることが出来ます。臨床試験に関する一般的情報はNCI Web siteから入手可能です。

胸腺がん

手術により完全に除去し得る胸腺がんの治療法には次のようなものがあります:
  • 放射線療法を併用または非併用する手術。
  • 抗がん剤の新しい組み合わせや投与量の臨床試験。
  • 新しい方法で行う放射線療法の臨床試験。
手術によっても完全に除去することができない胸腺がんの治療法には次のようなものがあります:
  • 放射線療法。
  • 癌の一部を除去する手術および/または放射線療法との併用または非併用する化学療法。
  • 放射線療法を併用する化学療法。
  • 化学療法。
  • 抗がん剤の新しい組み合わせや投与量の臨床試験。
  • 新しい方法で行う放射線療法の臨床試験。
現在、米国で胸腺がんの患者さんを受け入れている臨床試験があるかどうかNCIのがん臨床試験リストから確認してください。 試験の場所、治療の種類、薬剤名など研究の他の特徴から研究を詳細に知ることが出来ます。臨床試験に関する一般的情報はNCI Web siteから入手可能です。

再発胸腺腫、胸腺がん

再発胸腺腫、胸腺がんの治療法には次のようなものがあります:
  • 放射線療法を併用または非併用する手術。
  • 放射線療法。
  • ホルモン療法。
  • 化学療法。
  • 抗がん剤の新しい組み合わせや投与量の臨床試験。
  • 新しい方法で行う放射線療法の臨床試験。
現在、米国で再発胸腺腫、胸腺がんの患者さんを受け入れている臨床試験があるかどうかNCIのがん臨床試験リストから確認してください。 試験の場所、治療の種類、薬剤名など研究の他の特徴から研究を詳細に知ることが出来ます。臨床試験に関する一般的情報はNCI Web siteから入手可能です。
(2012年09月更新)

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